中国が月面開発に固執する理由
中国側は続いて行われる月背面地上探査のミッションは多国籍の技術を利用した装備で行われるという意味で、今回のプロジェクト自体を国際協力の成果と喧伝。ドイツのキール大学が開発製造した月面中性子測定技術やスウェーデン製の中性子原子、太陽風粒子の月面における作用を測定する技術、オランダ製のはるかな宇宙の音を聞き取る低周波電探測機ほかサウジアラビア製の機器などを使ってさまざまな実験や調査を行う。
ただし、今回の月背面着陸の成功の意義としては、民用の意義と同時に軍事的価値も大きいことも中国側は言及している。一つはこの宇宙開発ペースをみれば、中国が最初に有人月面基地を作る可能性が出てきたことだ。今回のミッションでは、月面および月の地下にある物資、資源調査を行い、特に核融合燃料としてのヘリウム3が地球に持ち帰られるかという、世界が長年みていた夢の答えをつかめる可能性がある。ヘリウム3は放射性廃棄物や放射線量の少ない理想の核融合燃料といわれ、地球のエネルギー難を解決する鍵と言われているものだ。この夢のエネルギー源を先んじて制したものが、未来の覇王となるといっても過言ではないだけに中国が月面開発に固執するのだ。
このヘリウム3を持ち帰るには、月面や月の地下からヘリウム3を含んだ砂を大量に掘り起こしてヘリウム3を取り出す作業が必要であり、そのためには月面基地を作らなければならない。このために月で人類が生存できるかどうかも、今回の探査の目的の一つだとされている。嫦娥4号は「マイクロ生態圏試験装置」を月面に持ち込んでいる。これは月面に土壌や水、空気、ジャガイモや蚕の卵などを持ち込んで小さな生態圏を月面につくり、その生育の様子を写真などで記録し地球に送信して、全方位的に生命科学やその他の科学研究の材料にするという。真空、微重力、極端な温度差などの外界条件で、月面に温度1-30度と適度な湿度が維持できる生態圏がつくれた場合、動植物は生存可能かという壮大な実験を行い、将来的な月面有人基地建設に生かしたい考えだ。ハリウッドのSF映画「オデッセイ」みたいなことを実際にやってのけようとしている。
さてこの中国の宇宙開発をSFの世界の実現、人類の快挙と純粋に喜んでいられるほど、人が無欲であればいいのだが、実際はこれを米中スターウォーズ開戦ののろし、と受け取る向きも少なくない。つまり、宇宙開発が資源を目的とした人類未踏の領土の奪い合いであるとすれば、これは戦争につながりうる。
AFPや華字ドイツメディア・ドイチェベレがこの点を解説している。
「2018年、中国の宇宙ロケット打ち上げは39回、米国31回、ロシア20回、欧州は8回。しかも中国が月面開発プロジェクトにまい進中。…2030年には中国人宇宙飛行士が月に降り立つ予定」
「中国は1970年に最初の衛星打ち上げ(東紅一号)、2003年に有人宇宙飛行に成功、2012年に宇宙ステーション天宮1号と有人ドッキングに成功。同時に国産GPSシステム・北斗衛星システムも作り上げた」
「もし中国人がこの軌道に沿って前進しつづければ、中国の宇宙技術は早々にロシアを超越する、とCSIS(戦略国際問題研究所)のトッド・ハリソンは言う」
Powered by リゾーム?