2010年代に入ってから、米スペースXやブルー・オリジンのような宇宙ベンチャーが、華々しく高速度の技術開発を展開している。が、この事実を単純に「商業ベースのベンチャーなら高速度の技術開発が可能になる」と受け取るべきではない。スペースXもブルー・オリジンも、1950年代から過去に米国が、米航空宇宙局(NASA)と、軍や中央情報局(CIA)、国家偵察局(NRO)などの安全保障関連の官需との両方で「米国の棚の上に積みかさねてきた」技術に多くを負っている。豊富な「棚の上の技術(オフ・ザ・シェルフ・テクノロジー)」を選び、適宜取り出して使えたからこそ、彼らは合理的に効率よく、高性能のロケットを開発できている。

 民間が手を出すのが難しい、長い射程を狙う技術開発投資は、結局のところ国が行うしかないのだ。

 とはいえ、だ。長期の技術開発にあたっては「何を狙うか」という目標設定が大切だが、旧科学技術庁や通商産業省(現経済産業省)の実績をみるに、官僚が選ぶ目標は「ハズレ」であることが非常に多い。この12月には高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まったばかりである。

 だから、むしろ研究者の目利きを許し、自発性を生かし、ある程度分散した多方向への投資を行うほうが、「棚の上の技術」を富ませることとなる。1件あたりの投資は少なくなるから、技術開発のベースはH3のような大型ロケットではなく、イプシロンのような小さくて経済的、かつ「失敗したとしても傷が小さい」なロケットが向いている。

 現在、日本が手を付けておらず、今後の宇宙開発には欠かせない宇宙輸送系の技術は数多い。液体ロケットブースターに有効な酸素リッチ二段燃焼サイクル技術も、「ファルコン9」ロケット第1段回収にあたってスペースXが採用した液体推進剤を過冷却して密度を高める技術も、中国が「長征5」ロケット初打ち上げで見せた通信衛星経由で飛行中のロケットを追跡管制する技術も、日本は持っていない。イプシロンはそれらの技術を継続的に開発するための基盤として使うことができる。

 今後のイプシロンは、仕様が確定し、安定して商業打ち上げに使えるバージョンと、各号機毎に新たな技術試験を入れ込むバージョンとの2系統にわけて、継続的に開発していくべきだろう。新たな技術は安定したところで商業バージョンに適用したり、あるいはH3やその先の大型ロケットへも適用していくという流れを作れば、日本は安定的かつ継続的に宇宙輸送系技術を蓄積していくことができる。

 1980年代から2000年代にかけて停滞していた世界の宇宙輸送系の技術開発は、2010年代に入ってから米ベンチャーの躍進と中国の大型投資により、急速に進むようになっている。日本も技術開発への投資を絞っている場合では、ない。

安全保障面でのブラフのカードとして

 強化型イプシロンの打ち上げ成功は、海外では「日本が潜在的に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を持つ能力を育てている」という論調で報道されてもいる。

 これはもっともな反応で、イプシロンロケットの持っている特徴、すなわち

  • 全段固体推進剤
  • 打ち上げ準備期間の短さ(第1段の射座への設置から打ち上げ翌日までの期間が、M-V は42日なのに対して、イプシロンは9日)
  • 少人数の運用者がパソコンを利用して“モバイル管制”で打ち上げる

 といった特徴は、すべてICBMにとって大変望ましい能力だ。