ところがワイラーはO3bに留まらなかった。衛星打ち上げに先立つ2012年に、新たにWorldVuというベンチャーを立ち上げたのだ。

 さらに彼は2014年9月にはグーグルからも離れ、WorldVuをワンウェブと改称した。

ワンウェブの衛星(左)と提供する端末のうちのひとつ(右)。このような小さな端末で衛星から直接ネット接続を提供するとしている(画像:OneWeb)

 ワンウェブの通信衛星コンステレーションは、より低い軌道に、より多数の衛星を配備する。重量約150kgの衛星約700機(初期には648機でシステムを構成する)を高度1200kmの複数の円軌道に分散して配置。地上には太陽電池など様々な電源が使用可能な小さな基地局を多数配置し、エンドユーザーとはその基地とスマートフォンなどのデータ通信でつながる。

 O3bでは、発展途上国の政府やネット接続起業に対して通信を提供していたものが、ワンウェブのシステムでは、より小規模な民間プロバイダー、あるいは個人に対してへ回線を販売することになる。

 ワイラーは矢継ぎ早に手を打った。、2015年1月に、ワンウェブはリチャード・ブランソン率いるヴァージン・グループと通信用半導体大手のクアルコムからの出資を取り付けた。同年5月には、ヴァージンからの追加出資に加えて欧州の巨大航空宇宙企業体のエアバスグループ、世界的清涼飲料大手のコカコーラなどからも出資を獲得し、商業打ち上げ最大手の欧州アリアンスペース社と2017年から2012年にかけての衛星打ち上げ契約を結んだ。

 同年6月には、900機もの衛星製造をエアバスに発注した。ワンウェブとエアバスは共同で米フロリダ州に、これまでにない多数の衛星を一気に製造するための工場を建設中で、ソフトバンクグループからの出資はこのために使われると報道されている。

イーロン・マスクが殴り込み、巨人ボーイングは静かに動く

 衛星コンステレーションによるネット接続提供に、続いて名乗りを上げたのはイーロン・マスク率いる米スペースXだった。同社は2015年1月16日に、4000機もの小型通信衛星を打ち上げて、地球上のどの地点からもインターネットへのアクセスを可能にする計画を発表した。その段階では2020年までに第1段階の軌道上システムを構築。最終的に2030年に完全なシステムとして完成させるとしていた。

 衛星通信業界は、スペースXの構想を懐疑と不信の目で迎えた。というのも、同社の計画は利用する電波周波数の使用許可をこれから取得するというものだったからだ。

 電波利用の権利は、国際的に複雑な手続きを経て取得する必要があり、かつ“早い者勝ち”の側面がある。ワンウェブはどうしたのかと言えば、面白い伏線があった。

 1990年代に、米マイクロソフト社のビル・ゲイツと、携帯電話ベンチャーのマッコウ・セルラーのクレイグ・マッコウが立ち上げようとして果たせなかった通信衛星コンステレーション「テレデシック」をご存じの方もいるだろう。あれがどうなったかといえば、取得した電波利用の権利ごと、ワンウェブに企業買収で取得されていたのだ。ビジネス展開にあたって最大の関門を、あらかじめ回避できていたわけだ。これに対してスペースXは新たに電波使用の権利を取得しなければならないので、「本気なのか」と疑われた。