スペースXの技術開発の軌跡(画像:スペースX)。短期間で次々に新技術を開発してきたことがわかる。左から、2006年:最初のロケット「ファルコン1」打ち上げ開始。2008年:3回の失敗の後にファルコン1打ち上げが成功、2010年:最初の「ファルコン9」ロケット打ち上げに成功、2012年:最初の貨物輸送船「ドラゴン」を国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げ、2013年:垂直着陸試験機「グラスホッパー」による垂直離着陸試験、2014年:「ファルコン9」第1段の逆噴射による着水試験、2015年:ファルコン9第1段、射点近くの陸上へ帰還・回収に成功、2016年:ファルコン9第1段、海上の回収船への着地・回収に成功。
スペースXの技術開発の軌跡(画像:スペースX)。短期間で次々に新技術を開発してきたことがわかる。左から、2006年:最初のロケット「ファルコン1」打ち上げ開始。2008年:3回の失敗の後にファルコン1打ち上げが成功、2010年:最初の「ファルコン9」ロケット打ち上げに成功、2012年:最初の貨物輸送船「ドラゴン」を国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げ、2013年:垂直着陸試験機「グラスホッパー」による垂直離着陸試験、2014年:「ファルコン9」第1段の逆噴射による着水試験、2015年:ファルコン9第1段、射点近くの陸上へ帰還・回収に成功、2016年:ファルコン9第1段、海上の回収船への着地・回収に成功。
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 米大統領選直前というタイミングで、民間宇宙ベンチャーからこのような構想が発表されたことで、NASAが開発中の有人宇宙船「オリオン」と打ち上げ用ロケット「SLS」は、新大統領の下で大きな影響を受ける可能性が出て来た。

 現在米国は基本的に、2010年2月にオバマ大統領が発表した宇宙政策に沿って動いている。最初に述べた「地球を巡る有人宇宙活動を民間に開放し、NASAは月やそれ以遠の有人宇宙探査の技術開発に専念する」というものだ。

NASAが開発中の「オリオン」有人宇宙船(画像:NASA)
NASAが開発中の「オリオン」有人宇宙船(画像:NASA)
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NASAのSLS。ロケットの規模としてはアポロ計画で使用されたサターンVとほぼ同程度だ。ブロックIからブロックIIへと段階的に開発する予定で、2018年の初打ち上げでは左端のブロックIが使用される(画像:NASA)
NASAのSLS。ロケットの規模としてはアポロ計画で使用されたサターンVとほぼ同程度だ。ブロックIからブロックIIへと段階的に開発する予定で、2018年の初打ち上げでは左端のブロックIが使用される(画像:NASA)
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 当初は、完全に技術開発のみを行い、有人宇宙船やロケットの開発は行わない予定だったが、米議会で優位に立つ共和党が民主党のオバマ政権に対して「米国は国家としての有人飛行能力を放棄すべきではない」と巻き返し、NASAはオリオンとSLSを開発することになった。オバマ大統領の前のブッシュ大統領が打ち出した有人月探査構想では、月探査用としてオリオン有人宇宙船とと「アレス」ロケットを開発することになっていた。これらが若干名前を変えて復活したわけである。

行き先が決まらないまま、開発が遅れるオリオン

 このような経緯があったために、米宇宙政策におけるオリオンとSLSの位置付けは不明確だ。オバマによる宇宙政策は、有人探査を実施する目標を「月以遠、火星軌道まで」と抽象的にしか記述していない。有人探査を行う対象が地球に近づく小惑星なのか、火星なのか、それとも火星の衛星のフォボスとダイモスなのか、なにも決まっていない。オリオンとSLSは、行き先が決まらないまま開発されている。

 しかもオリオンとSLSの開発は、遅れつつある。オリオンは2014年12月に最初の無人飛行を実施し、大気圏再突入能力の試験を行った。次の打ち上げは当初2017年中を予定していたが、現在は2018年9月にSLS初号機で無人のオリオンを打ち上げ、月を巡って帰還することになっている。最初の有人打ち上げは2021年に有人で月周回軌道に入り、帰還することになっていたが、現状では2023年まで遅れる可能性があるとしている。

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