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 9月27日に米スペースXのイーロン・マスクCEOが発表した有人火星船「インタープラネタリー・トランスポート・システム」は、米国の宇宙政策に大きな影響を与える可能性がある。

 現在、米国は有人宇宙活動を「地球周回軌道は民間に開放、それ以遠の深宇宙有人探査は国が行う」という切り分けを行っている。インタープラネタリー・トランスポート・システムは、この切り分けを踏み越えるからだ。

 一番最初に影響を受けるのは、米航空宇宙局(NASA)が開発している有人深宇宙探査船「オリオン」と、オリオン打ち上げ用ロケット「SLS」だろう。来年1月には、米大統領の交代がある。新大統領は就任1年後を目処に新たな新宇宙政策を打ち出すのが通例だ。2018年の米新宇宙政策に、スペースXの火星移民構想は大きな影響を与えることになるだろう。

 さらにその先には、「そもそも国家が行う有人宇宙活動の意義はどこにあるのか」というより根源的な議論が起きる可能性もある。

インタープラネタリー・トランスポート・システムの打ち上げ(スペースXプロモーションビデオより)。横には推進剤を補給するタンカーが控えている。第1段は射点に帰還し、タンカーを積んで再度打ち上げを実施。タンカーは、軌道上で有人宇宙船にランデブー・ドッキングを行って推進剤を補給する。

急展開が得意なスペースX、予算に縛られるNASA

 スペースXの新規計画ではいつものことながら、インタープラネタリー・トランスポート・システムの開発スケジュールは極めて急速、かつ楽観的なものだ。

 火星への打ち上げ機会は、地球と火星の位置関係からほぼ2年周期で巡ってくるが、2022年の打ち上げ機会には、最初の火星への飛行を行うとしている。だが、6年でこれだけ巨大な宇宙輸送システムを完成させることができるとは考えにくい。

 米国政府が青天井の予算を注ぎ込んだアポロ計画でも、サターンVロケットの開発には8年かかっている。おそらく、インタープラネタリー・トランスポート・システムの開発には10年以上かかり、実際の運用開始は最短でも2030年以降になると見ておくべきだろう。

インタープラネタリー・トランスポート・システムの開発スケジュール(画像:スペースX)。火星探査船「レッド・ドラゴン」の運用と並行して開発を進めるとしている。

 もちろん、資金面の困難に直面して計画が消える可能性もある。

 前回掲載したコスト試算を見る限り、スペースXはシステムの製造コストをかなり安く見積もっている。これまでの有人宇宙システム開発の実績からすると、安すぎといわねばならない。それでも、スペースXは新しい技術を駆使してゼロから設計を始めることで、低コストを武器にして商業打ち上げ市場に参入した実績もある。「無理だろう」と思えても、「できない」とは言い切れない線を突いてくるのが、この会社の憎いところなのだ。