未来は救いようのない過当競争か、需要急伸による市場拡大か

 現在、ブルー・オリジンは弾道飛行有人宇宙船「ニュー・シェパード」の無人打ち上げテストを繰り返している。ニュー・シェパードは、ニュー・グレンに先行して、商業有人弾道飛行サービスを開始するのはまず間違いない。ニュー・グレンの打ち上げが始まる時点で、同社は弾道飛行による十分な有人打ち上げの実績を積みかさねているだろう。

 ニュー・シェパードで得られる有人弾道飛行の実績と、ニュー・グレンを組み合わせれば、そこには商業地球周回有人飛行という新たな市場が見えてくる。これまで、地球周回軌道への商業有人打ち上げはロシアの「ソユーズ」宇宙船の独壇場だったが、おそらくブルー・オリジンは、破壊的な価格を提示して一気に市場を立ち上げると同時に、シェアを獲得しようとするだろう。

 もちろん、「クルー・ドラゴン」有人宇宙船を開発中のスペースXも、座視することなくなんらかのアクションを起こしてくるはずだ。

 商業打ち上げ市場は、1980年代後半以降、欧州アリアンスペースの一強に、ロシアの「プロトン」ロケットを運用するインターナショナル・ローンチ・サービス社(ILS)が続くという、安定した、逆に言えばユーザーにとってはあまり面白くない構造が続いていた。2010年代に入って、そこにスペースXが低価格を武器に参入し、大量の注文を得て「台風の目」的な存在となった。シェアトップのアリアンスペースも、これまで官需に安住していた米ユナイテッド・ローンチ・アライアンスも、スペースXがもたらした変化に対応すべく新ロケットを開発している。日本もまた、本格的なシェア獲得を目指し、「H3」ロケットを開発中だ。

 今回のブルー・オリジン/ニュー・グレンの参入表明で、2020年代の商業打ち上げ市場は、より混沌としたものになることは間違いない。現状では年間5000億円程度の規模しかない市場が、救いようのない過剰な競争に陥るのか、それとも低価格と有人による需要の伸びで巨大市場に変貌するのか――手垢のついた表現だが、「目が離せない」。

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