7mフェアリングは大きな利点
ジェフ・ベゾスは、預言者的な改革者であると同時にしたたかなビジネスマンでもある。スペースXのイーロン・マスクCEOは、火星植民という雄大な、それだけに夢で終わる可能性もある目標を掲げるが、ベゾスはそのような夢をみない。実際、彼は「岩しかない火星に興味はない」と発言している。
だから、ニュー・グレンはベゾスなりの計算で、経済的に成功するロケットとして構想されていると考えるべきだ。そう、大赤字を垂れ流したアマゾンが、大成功を収めたように。
ニュー・グレンの能力が、私の推定した通りとすると、ベゾスの狙いがはっきりと見えてくる。商業打ち上げ市場での成功と、新たな有人打ち上げ市場の立ち上げの両方を狙う“二股路線”だ。
おそらく、最初に運用を開始するのは、2段式のニュー・グレンだろう。現在の商業打ち上げ市場の大手、欧州アリアンスペース社の「アリアン5」と、開発中の後継ロケット「アリアン6」と同等の打ち上げ能力を持ち、第1段再利用で一層の低価格を提示することを狙っている。アリアン5/6で打ち上げ可能な衛星を、より安く打ち上げることで商業打ち上げ市場参入の尖兵となるわけだ。
公表された図から、2段式ニュー・グレンのフェアリング直径を推定すると5.4mとなる。これはアリアン5、そしてアリアン6と等しい。おそらくは「アリアンで打ち上げ可能な衛星は、打ち上げ時の振動や加速の条件も含めて、すべてニュー・グレンでも打ち上げできます」という設計になっているのだろう。
その上で、3段式のニュー・グレンは、第3段の追加と直径7mのフェアリングで、カスタマーに「より一層の打ち上げ能力と、より広いフェアリング容積」を提供する。
衛星メーカーにとっては、打ち上げ能力よりも“広いフェアリング”のほうが魅力的だろう。衛星は小さなフェアリングに収納するために畳んで打ち上げるが、打ち上げ後に展開する可動機構はトラブルの元だ。7mのフェアリングが使えれば、それを前提として可動部を減らした、よりトラブルの起きにくい衛星設計が可能になる。すでに、ブルー・オリジンが衛星メーカーに対して7mフェアリング搭載を前提とした衛星の開発を働きかけていてもおかしくはない。ファルコン・ヘビーのフェアリングも5m級なので、7mのフェアリングは、ニュー・グレンにとって商業打ち上げ市場をリードするための強力な武器となるだろう。
9月16日、ブルー・オリジンは、過去15年に渡ってアリアンスペース社米支社の社長を勤めたクレイ・モーリー氏が、同社に移籍すると発表した。商業打ち上げ市場のすべてを知り尽くした人物の移籍は、ブルー・オリジンが本格的に市場に参入する意志の現れと見て良さそうだ。
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