エンジン推力が確定したということはMCTの設計案も同時に確定したらしいことを意味する。イーロン・マスクCEOは、来る9月26日から30日にメキシコのグアダラハラで開催される宇宙関連の国際学会「International Astronautical Congress(IAC)」で火星植民に向けた具体的計画を発表することを明らかにしている。前回触れたように、9月1日にファルコン9・29号機の爆発事故が発生したが、IACでの発表は今のところキャンセルされていない。

 MCTは果たしてどのような設計になるのか――現行のファルコン9、開発中の「ファルコン・ヘビー」との共通点が多いほど開発コストは下がるので、「ファルコン9の機体に9基のマーリン1Dエンジンに代えて3基のラプターを装備し、かつファルコン・ヘビーでは2本のブースターを、4本~6本に増やし、第2段もラプターに換装し、打ち上げ能力向上に合わせてフェアリングも大型化した機体」が想像できる。が、ここはまもなく行われるIACでの発表を待つべきだろう。

「マーズ・ダイレクト」構想では、スペースシャトルの主な部品を流用した「ARES」という大型ロケットの使用を想定していた(Mars Direct: A Simple, Robust, and Cost Effective Architecture for the Space Exploration Initiative:Robert M. Zubrinなど、1991年、より)。シャトルの部品を流用する考え方は、現在NASAが深宇宙探査用に開発している大型有人ロケット「SLS」につながっている。スペースXのMCTはどのようなものになるだろうか。

 同時に、次の大型ロケットを、どのような方法でいま現在の企業経営に組み込んで開発していくつもりかも注目ポイントだ。ファルコン9は、NASAの国際宇宙ステーション(ISS)への貨物輸送の要求に応える形で、NASAからの補助金を受け取って開発された。さらに同社はファルコン9を低コストを武器に商業打ち上げ市場に売り込み、成功した。経済的に利益が得られる技術開発のサイクルを、次の大型ロケットではどのようにして回すつもりなのか——このことは、ロケットの仕様以上に興味深い。

“蒸気”に終わらせることなく目標を実現

 前回、イーロン・マスクCEOは、様々なIT系ベンチャーの習慣を宇宙業界に持ち込んだと書いた。「失敗を恐れない」「大胆に新技術を実用化する」「急拡大を目指す」だ。

 もうひとつ、彼は「ベイパーウエア(vaporware、実態のない蒸気のようなソフトウエア)」という習慣もIT業界から持ち込んだ。まだ存在しないソフトウエアをあたかも存在するかのように宣伝して、ライバルの開発気運を殺ぎ、ソフト開発とライバルに対するキャッチアップの時間を稼ぐ悪習だ。

 スペースXが「できる」としたことの実現時期はじりじりと遅れている。ファルコン9の年間打ち上げ回数の増大はなかなか進まず、当初2013年予定だったファルコン・ヘビーの初飛行は2016年末、あるいは2017年までずれ込んでいる。2015年初打ち上げ予定だったクルー・ドラゴン有人宇宙船も、2018年まで遅れそうな情勢だ。

 ただし同社にとって幸いなことに、宇宙関連分野は遅延が当たり前に起きる場所だ。ISSは、当初1992年完成予定が、実際には19年遅れの2011年完成だった。

 同時に、スペースXは、「できる」としたことを蒸気で終わらせることなく、当初予定から遅れてもしゃにむに実現してきた。