フルフロー2段燃焼サイクルのエンジンを実用化した例はない。ここまで米国が保有する過去の技術資産をうまく利用して、低コストのロケットを開発してきたスペースXが、なぜ世界初の新技術にチャレンジするのか。しかも推進剤は、米国が実用化したことがないメタン・液体酸素の組み合わせだ。

推進剤の火星における生産を想定か

 高性能で耐久性が高い一方で、重く複雑で高コスト、そしてメタン――当然スペースXは、長所を生かし欠点をカバーするようなラプターの使い方を想定しているはずだ。そのことと、過去にスペースXが公表していた次世代ロケット構想を組み合わせると、同社がどうやって火星移民に使えるロケットを開発しようとしているかが推察できる。

 核となるのは再利用だ。エンジン設計が再利用を前提としているということからして、耐久性が高いというフルフロー2段燃焼サイクルの特徴を生かした結果といえる。

 まず、再利用が可能ならば、高コストという弱点はカバーできる。ロケットの再利用技術は現在「ファルコン9」を使って開発しており、すでに第1段を回収することが可能なところまで来ている。ラプターを使った大型ロケットでも、ファルコン9で開発が進んでいるロケットの回収と再利用で、打ち上げコストを劇的に下げることが前提となっているのは間違いない。

 そして燃料にメタンを採用する理由は、火星での推進剤現地生産を想定していると考えれば理解できる。1990年に航空宇宙技術者のロバート・ズブリン氏らは、低コストの有人火星探査構想「マーズ・ダイレクト」を提唱した。同構想は、現在の技術水準で無理なく有人火星探査と火星移住を実現することを目指したものだ。そのための手段のひとつとして、地球から水素を火星に運搬し、火星大気に含まれる二酸化炭素と反応させて、メタンと酸素を現地生産し、帰還用の推進剤とする手法を採用していた。このやりかたを使うと、比較的少量の水素を持っていくだけで、帰還に必要な量の推進剤を確保できる。

 マーズ・ダイレクト構想は、NASAの火星探査構想に対する民間からのアンチテーゼというべきものだった。NASAは1989年に、ブッシュ政権で国家宇宙会議の議長を務めたダン・クエール副大統領の求めに応じて、有人火星探査構想を提出した。が、同構想は総額4000億ドル(約40兆円)がかかる非現実的なものだった。それに対抗したマーズ・ダイレクト構想は「必要なものは可能な限り現地の火星で調達する」という合理的な考え方で注目を集めた。

 スペースXはメタン燃料の採用について「それが火星に行くためにもっとも合理的だ」としている。ラプターのメタン燃料採用からは、スペースXの火星移住構想は、マーズ・ダイレクトを下敷きのひとつにしているであろうことが推察できる。

9月末、メキシコの国際学会に注目

 スペースXが2010年に公表した将来構想では、第1段には、「ファルコン9」ロケット第1段の9基の「マーリン1」エンジンを、1基で置き換える大推力ロケットエンジン「マーリン2」を開発するとしていた。その上でまず、ファルコン9の第1段のエンジンを1基のマーリン2で置き換えて低コスト化し、その次にマーリン2を3~6基束ねる大型ロケット「ファルコンX」と「ファルコンXX」を開発するというロードマップだった。ファルコンX/XXは、MCTの試案のひとつというわけである。この時点では、ラプターは、液体酸素と液体水素を推進剤とするファルコンX/XXの第2段用エンジンだった。

 2012年には、ラプターの燃料が液体水素からメタンに変更され、MCTは第2段だけではなく、第1段もラプターを使用することになった。その後、社内でかなり広範な検討と多数の設計案のトレードオフが行われた模様で、スペースX幹部の発言に現れるラプターの推力は300ftから700tfまで上下した。最終的に230tfという数字が確定したのは、2015年1月である。