現在のところ、ファルコン9の静止軌道用打ち上げ設備は、今回事故があったLC40のみだ。1カ所だけの射点設備で次々の打ち上げを実施するには、準備期間を短縮するしかない。それゆえの衛星搭載状態でのSFTだったのだろうが、今回の事故ではそれがあだとなり、カスタマーの衛星を破壊する事態となってしまった。

バックアップとなる射点設備が完成しつつある

 今回の事故を受けて、米メディアでは「スペースXは、より慎重かつ安全確実に打ち上げを実施する必要がある」とする論調が出ている。しかし、私は、財務状況が極端に悪化しない限り、スペースXが立ち止まり、従来の宇宙産業のような安全確実が第一の経営やロケット運用へと舵を切ることはないだろうと予測する。そうしなければ大量のバックオーダーを解消できないからだ。安全確実を期して打ち上げに時間がかかるようになれば、契約したスケジュール通りの運用を望むカスタマーからの信頼を失う。

 イーロン・マスクは常々「人類の火星移住が最終目標だ」と発言している。彼にとって、商業打ち上げ市場での成功は、マイルストーンでしかない。最終目標を達成するためには、こんな準備段階で立ち止まることはできない。

 スペースXにとって幸運なことに、これまでのアグレッシブな経営の結果、今や静止軌道向け射点設備のバックアップが整いつつある。

 LC40のあるケープカナヴェラル空軍ステーションに隣接するNASAケネディ宇宙センターには、2011年までスペースシャトル打ち上げに使われていた射点設備「LC39A」「同B」がある。スペースXは2014年にNASAとLC39Aを20年間借りる契約を結んでおり、大型のファルコン・ヘビーとファルコン9用の射点へと改造する工事を進めてきた。この工事は11月には竣工する予定だ。また同社はメキシコ湾に面したメキシコ国境近くのテキサス州ブラウンズヴィルにも新たな射点設備を建設中で、こちらは2018年以降に運用を開始する予定となっている。

ファルコン9/ファルコン・ヘビー用LC39A射点設備の完成予想図。射点上に立っているのはファルコン・ヘビー(画像:SpaceX

 事故直後にスペースXは事故は「ロケット本体ではなく射点設備側に原因がある」というコメントを出している。コメントの通り射点設備の側に事故原因があるならば、完成しつつあるLC39Aの手直しだけで打ち上げに復帰できる。早ければ年内にも打ち上げ再開という可能性もあるだろう。

危ない橋を素早く渡れ

 新しい大型ロケットであるファルコン・ヘビーの開発を進め、同時にファルコン9の大規模な改良を進める一方で、次々と打ち上げ契約を結び、高頻度でファルコン9を打ち上げる――間違いなく、今までの宇宙産業の基準からすると、スペースXは危ない橋を全速力で渡っている。あたかも、早く渡れば危ない橋でも渡りきれると考えているかのようだ。

 しかも渡りきっても、そこで終わりではない。次に、火星移民という更なる危ない橋を設定している。

 実際、同社はファルコン9・29号機の事故前に、次にむけての動きを見せていた。次世代大型ロケット向けの新しい大型エンジン「ラプター」の試作機を完成させ、テキサス州マクレガーにある、エンジン燃焼試験施設に搬入したのである。

(続く)