北朝鮮のミサイルが日本上空を通過した――8月29日午前5時58分頃、北朝鮮は平壌近郊の順安(スナン)から、中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射した。ミサイルは6時5分から7分頃に渡島半島から襟裳岬の上空を通過、6時12分頃に襟裳岬東方約1180kmの公海に落下した。途中ミサイルは3つに分離し、それぞれはほぼ同海域に落下している。飛翔距離は約2700km、到達高度は550km。日本政府は、北朝鮮が5月14日に発射したIRBM「火星12型」である可能性が考えられるとしている。

IRBMが日本に与える脅威は小さい
様々な観測と、高まる脅威が語られている。それを否定するものではないが、このコラムではあくまで、現時点で分かっている事実(もちろん調査が進んだ後、修正されることもあり得る)に立脚して、今回のミサイルの日本上空通過にどのような意味があるのかを考えてみよう。
まず押さえておくべきは、今回のような軌道でIRBMが発射された場合、日本への被害はゼロか、あったとしてもごく軽微ということだ。
ミサイルは日本領空通過前に、高度100km以上の宇宙空間に出てしまう。今回の場合、襟裳岬上空で最高到達高度550kmになったということだ。もちろん勢いがあるからまっすぐ直下の日本に落ちてくることもない。日本に被害が及ぶとすれば、発射後の早い段階の加速途中でエンジンが停止したり爆発を起こしたりして、本体、あるいは破片が日本に降ってくる場合だけである。日本と北朝鮮は、IRBMを使うには近すぎるのだ。日本にとっての現実的な脅威は、より射程の短いミサイルの「ノドン」なのである。
発射地の順安は平壌北方の平壌国際空港があるあたりなので、仮に発射地を平壌国際空港として、襟裳岬上空を通過したとすると2700kmを飛んだことになる。日本政府は「渡島半島上空を通過」と発表した。津軽海峡の上空を狙ったような軌道だ。
この経路は、「日本への刺激を最小限にするために、陸上を避け、津軽海峡を飛ばした」と見ることができる。実際、北朝鮮が、日本への示威行為を目的とするならばIRBMを使う意義は薄い。より直接的なノドンを使うべきなのである。
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