人材育成のために学生が計画の様々な局面で参加できるようにすることも必須だ。もちろん探査機設計の安全性を増すために、設計会議におけるISAS工学系研究者の役割を明文化し、“彼らがダメといったらダメ”というルールを作る必要もあるだろう。

 宇宙研方式では、日頃からISASの研究者相互、さらにはメーカーの技術者が頻繁に顔を合わせて公式、非公式を問わず議論することが前提になる。そのために、所内の人の動線の設計や、入退場管理システムによるゾーニングのやり直しも行うべきだろう。自由な発想には、「廊下でばったり会ったら議論になった」というぐらいの適度な組織のユルさが必須なのである。

工学試験衛星シリーズは独立させるべき

 ここから先は、JAXAだけではなく、宇宙政策委員会、さらには政治が動くことが必要となる。

 まず、新規技術の芽を育てる場として、ISAS工学系の試験衛星・探査機を「公募型小型」のサイズで構わないので、宇宙基本計画において理学系衛星からは独立した、3~5年に1機のシリーズとして確立する必要があるだろう。「技術開発なら、ISASを優遇しなくとも可能だ」という反論が出るだろうが、先鋭的な技術開発の現場が、学生も参加する宇宙研方式で回るということが、決定的に重要なのだ。待ったなしの現場で経験を積んだ学生は、数年のうちに現役の研究者や技術者となり、その後数十年間は現役で活躍することになるのだから。

 その上で工学試験衛星・探査機のシリーズには技術開発のための予算を十分につけ、メーカーが赤字受注するというようなことがないようにしなくてはいけない。赤字でISASの仕事をして、得られた技術でNASDAから仕事を取るというやり方ができなくなった以上、きちんとひとつひとつの仕事で、メーカーが利益がでるようにするべきだ。

現在JAXA/ISASで検討中の深宇宙探査技術実証機「DESTINY」(画像はDESTINYホームページより)。小型ながら新しい技術を多く採用した工学試験機であり、薄膜太陽電池と、大型イオンエンジンを使った太陽系空間航行を実証する。このようなISAS工学系が主導する衛星・探査機を定期的に開発し、打ち上げることができる環境を作って行く必要がある。

理学系が「次があるさ」と思える環境が必要

 次に、理学系研究者が「いつ次の衛星を上げられるか分からないから、今度の衛星に可能な限りの高性能と積めるだけの観測機器を積む」ようなことをしなくても済む制度設計が必要だ。ひとみ分解事故では、高い科学的成果を狙ってぎりぎりまで理学系研究者が粘ることが、結果的に衛星の設計と運用の両面で安全性を損なうことにつながった。この粘りは、今年度打ち上げ予定のジオスペース探査衛星「ERG」では、予算超過と計画遅延の原因のひとつともなった。

ジオスペース探査衛星「ERG」(画像:JAXA)。当初計画では2015年打ち上げを予定していたが、予算超過のため2016年打ち上げとなった。

 これは「そのようなことをしてはいけない」と禁止しても有害無益だ。というのも、理学系研究者が、諸外国の研究者と熾烈な競争を展開している結果が、「ぎりぎりまで粘る」という行動になって現れているからだ。「ぎりぎりまで粘るな」ということは「世界一線級の科学的成果を出すな」といっているのと同じことになってしまう。それは理学系研究者の存在意義を否定することになる。

 解決法は2つある。

 ひとつは、理学系研究者が「この衛星でダメでも、次の衛星がある」と思える状況を作る。具体的には宇宙基本計画に記載する科学衛星・探査機の数を増やすことだ。現在は10年間で中型3機、小型5機の合計8機となっているが、これを最低でも、かつての文部省・宇宙科学研究所時代と同じ、平均年1機の「10年間に10機」に戻すべきだろう。そのためには、JAXAの内部改革だけではすまず、宇宙政策委員会や政治が動くことが必要になる。

 おそらく「ひとみの事故で、宇宙科学は焼け太りを狙うつもりか」という反対意見が出るだろうが、実態は全く異なる。