R-27SLBMの構造図。タンクは3つに分割されており、上2つが酸化剤。下1つが燃料となっている。4D10エンジンは燃料タンクに食い込み、燃料に漬かった状態で使用する。1)弾頭、2)搭載電子機器、3)ゴム製衝撃緩衝材、4)下部酸化剤タンクと上部酸化剤タンクを結ぶ配管、5)タンク加圧系、6)酸化剤タンク、7)エンジン酸化剤供給配管、8)燃料タンク、9)4D10主エンジン、10)姿勢制御エンジン(画像:ロシア語版Wikipediaより)

 北朝鮮は、1991年のソ連崩壊直後に、4D10エンジンを50基入手したという情報もある。このため今回の発射実験で打ち上げられたムスダンのエンジンが、4D10そのものなのか、4D10に基づく北朝鮮による独自開発品なのかは不明だ。ただし北朝鮮は2003年にムスダンを10数基程度配備(軍事パレードに登場、発射実績はなし)、その後イランに19基を輸出した、という情報があるので、ソ連製4D10エンジンは、そちらに使われた可能性が高い。

 R-27SLBMは、容積が限られる潜水艦の中に搭載するために、衛星打ち上げロケットでは考えられないトリッキーな設計を行って全長を短縮している。4D10エンジンは、燃料タンクの中にめり込み、燃料に“どぶ漬け”状態で配置されていて、その分全長を短縮しているのだ。自動車のガソリンタンクの中にエンジンを入れて、燃料漬けにしたまま運転するようなものである。恐ろしいとも、見事ともいえる割り切った設計だ。

 私は、連続5回の失敗の末に成功という実績から、今回の試験で発射されたムスダンに搭載されたのは4D10に基づいて開発された北朝鮮製エンジンだと推測している。

 1990年代初頭から研究開発が始まっていたムスダンの発射試験が、四半世紀後の2016年になったのは、SLBM特有のトリッキーな設計と、2段燃焼サイクルの4D10エンジンをコピーするのに手間取った結果、と推測する。4月以降の発射試験で、発射直後の爆発が相次いだのも、この「燃料タンクどぶ漬けの2段燃焼サイクルエンジン」に手こずった結果だろう。

国策だけに“アポロ並み”の速度で進む?

 熱防護材技術と、高性能の2段燃焼サイクルエンジン開発の足がかりを得て、北朝鮮が次に目指すのは、より大型の、米本土を直接攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発であることは間違いない。

 金正恩第一書記は、核弾頭を装備し、米本土に到達可能なICBMを保有することで米国と対等の立場で交渉するという意志を見せている。すでに北朝鮮の軍事パレードには、コードネーム「KN-08」と、KN-08の改良型らしきコードネーム「KN-14」という大型のICBMのモックアップが登場している。

 熱防護材技術が、これらのICBM開発の役に立つことは言うまでもない。エンジンはより直接的に、米本土を射程に収めるICBMの開発につながっている。KN‒08は、ムスダンに第2段と第3段を付加した3段式であると推定されている。ムスダン成功は、即KN‒08第1段の成功を意味するわけだ。さらにKN‒14は、KN‒08の第1段を強化して、性能を落とすことなく2段式にしたICBMらしい。今年4月に朝鮮中央通信は、4D10を2基束ねたと思しきエンジンの地上燃焼試験の映像を「新型大陸間弾道ミサイル用」として公表している。これはKN‒14の第1段用なのかもしれない。

 金正恩第一書記は、なりふり構わず最優先で国家のリソースをICBM開発に注ぎ込んでいる。アポロ計画がそうだったように、このような状況では技術は急速に進歩する。

 アポロ計画はケネディ大統領の演説から8年で月に人を送り込んだ。北朝鮮のICBM開発もそれぐらいのテンポで開発が進展すると考えて、対応していく必要がある。油断してはならない。