高度1000km以上に到達させて急角度で大気圏に突っ込ませるという軌道(通常の打ち上げよりも高く上げるので、ロフテッド軌道という)は、再突入時の弾頭に強い空力加熱がかかるので熱防護材の試験には好適だ。また、元山から北東に向けたロフテッド軌道では、ほぼ北朝鮮の海岸から見通せる範囲内を飛行するので、弾頭部に搭載した計測機器によって計測した大気圏突入時の温度や熱の貫入量などの各種データを、沿岸に配置した地上局を通じて無線で受信することもできる。

 これまでのロケット開発経緯から見るに、北朝鮮の技術者達は有能で粘り強い。弾道ミサイル開発に必須の熱防護材の基礎データを、取得しなかったとは考えにくい。

 3月の“雑”な試験も、その後に実際の打ち上げを通じて大気圏再突入試験を行う予定があったので、地上ではロケットエンジンの噴射を当てて「とりあえずは熱防護材が壊れないことを確認する」試験を実施したと解釈できる。

 この推測が正しいならば、今回の打ち上げで、北朝鮮は弾道ミサイルに必須の熱防護材開発のための基礎データを手に入れ、弾道ミサイル開発に向けて大きく前進したことになる。

ロシア由来の2段燃焼サイクルエンジンを国産化か

 もうひとつ、北朝鮮は今回のムスダン打ち上げで重要な技術を手に入れた可能性が高い。ロケットエンジンを高性能化する2段燃焼サイクルである。

 先に述べた通り、ムスダンは旧ソ連の開発したR-27SLBMを基本としているが、R-27のエンジンである「4D10」は非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素という、常温で液体の推進剤を使用する、2段燃焼サイクルのエンジンなのである。

 液体ロケットは燃焼室に燃料と酸化剤を吹き込み、燃焼させて発生したガスを噴射することで推力を発生する。燃焼室は高温高圧になるので燃料と酸化剤を吹き込むためにターボポンプを使う。ターボポンプの駆動するガスをどうやって得るかで、ロケットの燃焼サイクルが決まる。

 もっとも一般的なのが、別にガス発生器(ガス・ジェネレーター)という小さな燃焼室で燃料と酸化剤の一部を燃やし、得られた高温のガスでターボポンプを駆動するガス・ジェネレーター・サイクルだ。この方法ではポンプを駆動したあとのガスは捨ててしまうので推力発生に寄与しない。

 2段燃焼サイクルは、一部の酸化剤と燃料の全量を不完全燃焼させてターボポンプを回し、その後で不完全燃焼ガスと残る酸化剤と燃焼室に押し込んで再度燃焼させて噴射を行う。こうするとガスの全量が推力発生に使えるのでエンジン性能が向上する。その一方でポンプはガスジェネサイクルの約2倍の圧力を発生させねばならず、開発は難しくなる。

 旧ソ連は、1960年代に2段燃焼サイクルを世界に先駆けて実用化し、ミサイル用から衛星打ち上げロケット用に至るまでの様々なロケットエンジンに適用してきた。