事故の経緯を示す模式図(事故調査報告より)。一定の姿勢を保持しているにも関わらずひとみは自分が回転していると誤認し、回転を止めようとして逆にゆるやかに回転し始めてしまった(左)。その結果姿勢を変えるためのリアクション・ホイールという装置の回転数が上限に達してしまい、緊急時にもっとも安全な姿勢をとるセーフホールド・モードに入ろうととした。ところが、姿勢制御の噴射に必要なデータが間違っていたために、より一層高速に回転するようになってしまい、太陽電池パドルと伸展式光学ベンチがちぎれてしまった(右)。
事故の経緯を示す模式図(事故調査報告より)。一定の姿勢を保持しているにも関わらずひとみは自分が回転していると誤認し、回転を止めようとして逆にゆるやかに回転し始めてしまった(左)。その結果姿勢を変えるためのリアクション・ホイールという装置の回転数が上限に達してしまい、緊急時にもっとも安全な姿勢をとるセーフホールド・モードに入ろうととした。ところが、姿勢制御の噴射に必要なデータが間違っていたために、より一層高速に回転するようになってしまい、太陽電池パドルと伸展式光学ベンチがちぎれてしまった(右)。
[画像のクリックで拡大表示]

事故調査が示す、衝撃的な「なぜ」の連鎖

 事故の直接原因は「搭載ソフトに与えるデータの一部が間違っていた」ためで、間違ったデータが使われたのは「一定姿勢を保持しているにも関わらず、回転していると誤認」したためである。

 今回の中間報告が示す「なぜ」の連鎖は、かなり衝撃的だ。

 まず、なぜデータが間違っていたか。間違ったデータを送信していたからだった。では、なぜデータを間違ったか。作成したデータをシミュレーターで確認していなかったためだった。なぜ、シミュレーターによる確認が行われなかったか。担当作業者がその必要性を認識していなかったためだった。

 なぜ必要性が認識されていなかったか。そもそもひとみの姿勢制御に関するデータを打ち上げ後に書き換えること自体が、その重要性も含めて関係者に周知徹底されていなかったのである。打ち上げ前に作成する「運用計画を規定する文書」にも、書き換えが明確に記述されていなかった。

 姿勢制御に関するデータの書き換えというのは、衛星にとってかなりのおおごとであり、間違えれば姿勢を維持できなくなる。

 本来なら、関係者に全員周知徹底したうえで、万が一にも間違いが起きないように体制を組んで行うべきものだ。あるいは、予め打ち上げの前に、打ち上げ後のデータもひとみに搭載するコンピューターに書き込んで、軌道上で切り替えるようにしておいて、地上からの操作は調整に留めるべきだった。

 重要性が関係者間で共有されていかなったので、データを作成するソフトウエア・ツールの手順書はなく、書き換えのリハーサルもなく、データ作成からシミュレーションを経て実際の書き換えにいたる作業の手順書もなかった。そして、メーカーのみならずスーパーバイザーとなるべきJAXAも、データ変更の運用状況を最終的に確認していなかった。

今回の中間報告の白眉というべき2ページ。EOBというのは伸展式光学ベンチのこと。ひとみは打ち上げ後に、機体の後部に長くEOBを延ばして展開する。このため重心位置が変化するので、展開後に姿勢制御に関するデータを地上から書き換えてやる必要があった。
今回の中間報告の白眉というべき2ページ。EOBというのは伸展式光学ベンチのこと。ひとみは打ち上げ後に、機体の後部に長くEOBを延ばして展開する。このため重心位置が変化するので、展開後に姿勢制御に関するデータを地上から書き換えてやる必要があった。
[画像のクリックで拡大表示]

次ページ 観測にはやる理学系、歯止めとならなかった工学系