これまでに判明している、ひとみ喪失事故のプロセス

 これまでの調査で、ひとみの事故は4つの段階を経て進行したことが判明している。4月15日と4月28日のJAXA記者会見、及び4月19日の文部科学省・宇宙開発利用部会で公表された資料に基づいて、以下にまとめる。

1)姿勢の誤認

 最初に起きたのは、ひとみの姿勢を検知する仕組みが、本体が回転していないにもかかわらず「回転している」と誤認したことだった。ひとみはX線望遠鏡を正確に観測対象に向けるために自分の姿勢を検知する仕組み、そして姿勢を保ったり変えたりする仕組みを搭載している。

 姿勢を検知するのは、恒星がどちら方向に見えるかで姿勢を調べるスタートラッカー(STT)、姿勢変化の角加速度を検出して積分することで回転速度を計測する慣性基準装置(IRU)、太陽の見える方向から姿勢を調べる太陽センサー(CSAS)という3つの装置だ。

 トラブル直前の3月26日午前3時1分から、ひとみは姿勢を変更して次の観測対象へとX線望遠鏡を向けた。姿勢を変える時は当然STTやIRUで姿勢を監視しつつ行うのだが、この時STTの視野には地球が入っていた。微弱な恒星の光を使うSTTは視野に地球が入っていると使えない。このため姿勢変更時の状態の監視はジャイロの一種であるIRUが行っていた。

 IRUは使っているうちに誤差が蓄積するので、時々STTの計測データを使って誤差を補正するようになっている。姿勢変更後の午前4時過ぎにはSTTの視野から地球がはずれ、STTは姿勢の測定を開始した。STTの計測でIRUに蓄積した姿勢の誤差が分かれば、その分差し引いて、正しい姿勢を知ることができる。

 ところがこの誤差の数値情報が更新されなくなってしまった。更新されなかった原因は、STTになんらかの理由でリセットがかかった可能性が指摘されている。

 ひとみのシステムは、STTとIRUの検出した姿勢に角度にして1度以上の差があった場合にはIRUの値を採用するように設計されていた。つまりSTTにリセットがかかっている間に差が1度以上になってしまうと、その後STTが再起動しても「IRUにこれだけの誤差が発生している」という数値がSTTによって更新されなくなってしまう。

姿勢制御の試みが次々と失敗

 この結果ひとみは、実際には回転していないにもかかわらず「自分は回転している」と誤認してしまった。

2)誤認した数値に基づく姿勢制御

 誤認のままに、ひとみは自分の回転を解消しようとした。

 ひとみには、1)はずみ車の反動で姿勢を変えるリアクションホイール、2)搭載した電磁石に電流を流して地球の磁場を使って姿勢を変える磁気トルカ、3)小さなロケットエンジンの噴射で姿勢を変えるスラスター――という3種類の姿勢を変える仕組みが搭載してある。まず、ひとみはリアクションホイールで回転を止めようとした。

 実際には回転していないのに回転しているという誤認のもとで回転を止めようとしたので、ひとみの姿勢は崩れてゆっくりと回転を始めた。じきに、リアクションホイールの回転数は上限に到達してしまった。機体の回転により太陽電池パドルには光が当たらなくなった。CSAS、または太陽電池の発電量から姿勢異常を検知する仕組みがあれば、この時点でトラブル発生が検出できたはずだが、そのような仕組みは搭載されていなかった。