OBの話がいくらかでも真実を含んでいるとしたら、事故調査報告は少なくとも「そのようなプレッシャーが現場担当者にかかる組織の問題」を指摘しなくてはいけない。が、そこまで事故調査報告書の筆は及んでいない。当時、もしも事故調査で免責特権が保証されていたら、担当者はきちんと自分のやったことを証言した可能性もある。

 ちなみに、このようなカッコ付きの「真相」は、最近の事故でも聞こえてきている。

 ひとみの事故調査は継続中であり、まだまだ明らかにしなければならないことは多い。事故の発端となったSTTは、新規開発品であり、本来ならば最初に技術試験目的の衛星に搭載して軌道上での動作を検証するべきものだった。それがいきなりひとみに搭載された経緯は要確認だ。適当な技術試験衛星計画がなかったのだろうか。ならば、なぜ技術試験衛星計画がなかったか、それは、予算の問題か政策の問題か、と、問題の根本を掘り下げていくべきである。

 さらには、ひとみはSpaceWireという新型の機体内ネットワークで搭載電子機器を接続している。新しい技術は常にリスク要因なので、事故と関係があったかどうかを調べる必要がある。採用の経緯から、ソフトウエア開発のプロセスの状況(開発陣がデスマーチに陥っていなかったか)、開発ツールのバグに至るまでの検証が必要だろう。

 いずれも「誰が悪いのか。責任があった者を見付けて処罰しろ」という姿勢でいると、真実がでてこないであろう事ばかりだ。

代替衛星につなげるためにも徹底した事故調査を

 天文観測を行う宇宙望遠鏡衛星は、観測の高度化と精密化に伴って大型化しつつある。このため世界各国が独自に衛星を開発して打ち上げるのではなく、国際協力により“人類全体でひとつの衛星を作り、打ち上げる”ようになっている。ひとみは、日・米・欧を中心とした一大国際協力計画であり、今後10年近く人類のX線天文学の最先端を担う予定の衛星だった。「ひとみ」の次世代となる国際協力によるX線天文衛星「Athena」は欧州が主軸となって開発を行い、2028年に打ち上げられる予定だ(“お家芸”X線天文学が迎える12年間の空白:2016年3月2日参照)。ひとみの喪失により、このまま手をこまぬいていると、日本一国ではなく人類全体にとってX線天文学の発展が12年も停滞することになる。

 これはひとみ計画の主軸を担った日本にとって、小さからぬ問題だ。人類全体に対する負債といってもいい。安倍首相が「日本は人類社会に対して責任ある態度を行動で示す」として、代替機打ち上げを明言しても良いぐらいの事態である。

 政治は、すべてが明確にならないとなかなか主体的に動くのは難しい。政治がひとみ代替衛星の開発に向けて動くことができる環境を作るためにも、詳細かつ組織や政策にまで遡った事故調査が必要なのだ。