再発防止を目的とした事故調査のやり方は、米国の国家運輸安全委員会(NTSB)が進んでいる。NTSBは他の官庁から切り離された独立した組織で、航空機や鉄道、船舶などの大規模交通機関の事故調査で強い権限を持っている。警察よりも先に現場を調査する権利を持ち、NTSBが行う関係者への聞き取り調査は民事において免責される。NTSBの目的は「事故の責任者を処罰する」ことではなく「事故の再発を防止すること」だ。そのために、「何を話しても、その内容に基づいたペナルティを受けない」ということにして、真実を証言しやすくしている。

後になって出てくるカッコ付きの「真相」

 実のところ、我々日本人は事故責任者への処罰感情が先に立つ傾向があり、「再発を防止する」観点からの事故調査が得意ではない。

 特に、関係者の免責に対して拒否反応を示す人は少なくない。「責任者を出せ、処罰しろ」という雰囲気の中では、証言者は自分に不利になるのではないかという恐怖から真実を話せなくなるし、また組織として「身内の責任者を守れ」「組織そのものを守れ」という対応が発生して、組織ぐるみの隠蔽が度々起きている。

 そのせいか、過去の宇宙関連の事故調査は、「この様な原因でこのような事故が起きました。そこでこのように対策しました」という物理現象のみの指摘に留まり、その先にある組織や行政、政策の問題を指摘できずに終わっている。これでは、同じ事故を繰り返してしまう可能性を減らせない。

 宇宙関連の取材をしていると、後になって「実はあの事故は……」というカッコ付きの「真相」が聞こえてくることがある。これらは噂であって、本当かどうかの確認をとることが困難なので、なかなか記事として書くことができない。

 それでも、私がぶつかった事例の中から「もはや時効」と言える古い話を書いてみる。
 1998年2月21日に起きたH-IIロケット5号機の事故のケースだ。第2段エンジンの燃焼室に穴があき、吹き出したガスが電気系の配線を焼いてしまったために燃焼が途中で停止し、衛星を予定の軌道に投入できなかった。事故調査報告書(宇宙開発事業団ホームページ:リンク先はウェブアーカイブ)では、エンジンろう付け部の不備が原因の可能性が高いとしている。

 また、このエンジンは地上試験で、治具の取り忘れによって“空焚き状態”になり過熱したものの、点検で異常がなかったためにそのまま出荷して使用していた。過熱した部位が弱くなっていて、打ち上げの最中に破れた可能性もある。

 ところが、ずっと後になって別件で2段エンジンを製造した三菱重工業のOBに取材した際、この事故が話題にのぼったところ「ひとり困った行動をとった担当者がいた」という話が飛び出してきた。

 そのOBによると、地上試験の担当者が空焚きの責任が自分にかかるのを恐れて、「大丈夫だ」ということにして無理にエンジンを出荷したというのである。ろう付け不備の可能性を指摘した事故調査については「あれは言い訳であると思う。それまでずっと同じ手法でろう付けをしてきて同様の事故がなかったのだから、空焚きが原因で間違いない」ということだった。