米軍は、冷戦時代にソ連の偵察衛星を観察するために作った、軌道上を監視する望遠鏡を持っている。彼らにとってひとみの分解は、衛星がどのように分解するかを知るサンプルになるので、おそらくすでに観測しており、その結果、レーダーでは分からなかった物体の形状を知り、訂正を出したのではなかろうか。JAXAでも、軌道上のひとみを大型の望遠鏡で観察する準備を進めているが、4月3日現在、まだ撮影に成功したという報はない。

 復旧の可能性はどれほどのものだろうか。

 JAXAはひとみの現状を、「姿勢維持機能を喪失して回転しており、そのために太陽電池パドルに太陽光が当たらなくなっている」と推測している。これが正しければ、いずれ回転は太陽電池パドルに対して垂直の軸に収束する。すると、地球が太陽の回りを巡るに従って、太陽光の来る方向が変化し、やがて太陽電池パドルに光が当たってひとみは電力を回復する。電力が得られれば地上との通信が可能になり、通信により衛星の詳細な状態が分かれば復旧の糸口がつかめるかもしれない。

 いずれにせよ、通信回復から復旧までは数カ月以上の長丁場となるだろう。また、すべての観測が可能になるまで復旧できるかどうかは分からない。なにしろ、大きな破片が分離しているほどの損傷を受けているので、観測ができなくなっている可能性もある。

 ひとみが、どこまで復旧できるかは今後の推移を見守るしかない。が、その間にも地上でできることはある。大きなダメージを被ったX線天文学へのてこ入れ――具体的には代替衛星への予算処置だ。

しなびる日本の科学と技術

 日本の宇宙政策は、2008年の宇宙基本法の施行以降、情報収集衛星(IGS)と準天頂衛星システム(QZSS)に代表される安全保障を中心とした実利用分野に力を入れており、技術開発と宇宙科学には十分な予算が回っていない。宇宙科学分野は、科学者のボトムアップにより次期計画の選定と実施を行うとしつつ、予算に一定の枠が嵌められた形となっている。結果、近年になって諸外国との間で技術的な立ち遅れと、科学的成果の減少が散見されるようになった。

 米国ではベンチャーのスペースXとブルー・オリジンがロケットの垂直着陸による再利用の実用化を目指してしのぎを削っている。同分野では、JAXA宇宙科学研究所が限られた予算の中で研究を続け、実機開発構想を立ち上げているものの、開発には至っていない。商業用の通信・放送衛星分野では、静止軌道への投入を行うロケットエンジンと軌道位置を保持するスラスターをイオンエンジンに一本化した完全電化衛星が世界最先端のトレンドとなっているが、日本では、JAXAがやっと今年度から完全電化衛星の開発に手を付けようというところだ。

 宇宙科学分野は中国とインドを中心に新興勢力が急速に力をつけている。中国は2013年の「嫦娥3号」で月軟着陸と無人探査ローバーの月面走行を成功させた。一方日本は2000年代初頭から月着陸機「セレーネ2」構想を持っているものの、いまだ月軟着陸も月面走行ローバーも実現させていない。インドは2013年11月に火星探査機「MOM(通称マンガルヤーン)」を打ち上げ、2014年9月に火星周回軌道投入を成功させて、現在も観測を続けている。この3月には、三菱重工業のH-IIAロケットがドバイの火星探査機「アル・アマル」(2020年打ち上げ予定)の打ち上げを受注した。その一方で日本の火星探査機は、2003年の火星探査機「のぞみ」の周回軌道投入断念の後、13年を経た今も構想はあるものの具体的な開発計画は動いてはいない。H-IIAロケットは日本の火星探査機より先に、ドバイの火星探査機を打ち上げることとなる。

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