実は米国――少なくとも米国の科学技術予算についての意志決定を行う当事者――は、この事実に気がついていると思われる。さすがはヤーキスの1m以来、地上の望遠鏡大型化をリードしてきた国というべきかも知れない。

 1970年代、米国は可視光、赤外線、X線、ガンマ線という、幅広い波長領域で宇宙を観測する望遠鏡衛星を打ち上げる「グレート・オブザバトリー」という計画を立ち上げた。計画は、予算の削減やスペースシャトルの事故などに振りまわされたが、可視光の「ハッブル」(1990年打ち上げ)、ガンマ線の「コンプトン」(1991年打ち上げ)、X線の「チャンドラ」、赤外線の「スピッツァー」(2003年打ち上げ)と、4機の大型天文衛星を打ち上げ、多種多様な成果を挙げた。

 現在は、ハッブル後継となる口径6.5mもの望遠鏡を搭載した「ジェイムズ・ウェッブ」(2018年打ち上げ予定)を開発し、さらに2020年代半ばの打ち上げを目指して口径2.4mの宇宙赤外線望遠鏡「WFIRST」の開発に乗り出した。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡想像図(Image NASA)

 ちなみにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発費用は80億ドル。これはドル120円のレートで考えると、現在の日本政府が安全保障のために必要だとして継続している情報収集衛星(IGS)の、1998年以来2013年度まで16年間の累積投資額(約9500億円)に匹敵する。安全保障用途の日本最大の宇宙計画であるIGSと同規模の資金を、米国がたった1機の宇宙望遠鏡に投資する一番深い理由は、「それが長期的には確実に役に立つと判断しているから」だと言える。

 そして現在、宇宙を含む望遠鏡の分野でも中国が急速に力をつけてきている。地上では、口径500mの世界最大となる電波望遠鏡「FAST」を貴州省に建設中だし、宇宙望遠鏡としては第12次五ヶ年計画(2011~2015)の中で、近くX線観測衛星「HEXT」を打ち上げる予定だ。さらには次の第13次五ヶ年計画やその先の2030年までの長期計画に向けて、多数の天文観測衛星構想を検討している。

巨大化する望遠鏡への投資をどうやって継続するか

 財政難の日本にとって、実に悩ましい事態だ。

 巨大な望遠鏡は長期的には確実に人類社会に役に立つ。が、すぐにはリターンのない大きな投資が必要だ。国際協力に参加するにしても、お互いに利用価値があると認め合ってこそ成立するものだ。つまり日本に、固有の卓越した技術がなくてはそもそも相手にしてもらえない。そのためには、継続的に宇宙望遠鏡に投資し続ける必要がある。

 その一方で、中国は急速に追い上げをかけてきており、いつまでも“お家芸”などという報道で良い気分になっているわけにもいかない。

 おそらく政府は近い将来、2008年の宇宙基本法成立以降維持し続けている実利用と安全保障に重点を置く宇宙政策を、より宇宙科学と技術開発へ力を注ぐよう修正する必要が出てくるだろう。さもなくば、日本は世界の宇宙科学の進展から脱落することになる。それは長期的には、人類社会の繁栄へ日本は寄与しない――日本は世界の中でどうでもよい国になる――ということを意味する。