「ひとみ」以降は2028年まで空白?!

 この状況下で、X線天文学関係者は2つの方向に活路を見いだそうとしている。

 ひとつは国際協力による、より大型の衛星の実現だ。20世紀末から日米欧のX線天文学関係者は、ポスト「ひとみ」としてより大型の衛星を国際協力で実現する可能性を模索し続けており、現状では2028年に欧州が主体となって打ち上げる大型X線天文衛星「Athena」で協力体制を組むというところまで漕ぎつつけた。Athenaは重量6.5tとひとみの2倍以上の規模のX線天文衛星だ。

Athenaの想像図(Image ESA)

 ただし、計画を具体化する過程は各国の事情により二転三転し、苦労の連続だったという。計画自体も検討の過程で「XEUS」、「IXO」、「Athena」と、名称が変わり、そのたびに衛星の仕様も搭載観測機器の性能も変化し続けた。

 「ひとみ」打ち上げから、Athenaの上がる2028年まで12年。ここに空白期間を作ると、新たな観測ができないために日本のX線天文学が途絶えてしまう。

 そこでX線天文学関係者は、この間により目的を絞った小さな衛星を上げようとしている。目標の絞り方は、「より精度の高い分光観測に的を絞る」「より短い波長のX線を観測する」などいくつか候補があるが、「ひとみ」の観測で得られるデータに基づいてもっとも有望そうな方向性を選ぶ方針だ。つまりこの小型化路線は「ひとみ」、そしてAthenaの大型化路線があるからこそ取り得る。

米国は1機の宇宙望遠鏡に1兆円を突っ込む

 「学者達が予算が厳しい中、色々頑張っているだけじゃないか。そんな話は他の分野だって珍しくもない」と思う方も多いだろう。が、望遠鏡の場合は少々趣が異なる。なんといっても望遠鏡にとって“大きいは正義”だ。大きければそれだけでも確実に大きな科学的成果を挙げることができる。

 そして、天文学は大方が思っている以上に人類にとって役に立つ学問だ。星を観測することで人類は暦を作り、さらに遠洋航海の手法を手に入れた。星を観測することで物理学を発達させ、それを応用することで技術を進歩させた。現代社会は、量子力学と相対性理論の上に成立している(たとえば半導体エレクトロニクスは量子力学の産物だし、カーナビに代表される衛星ナビゲーションは相対性理論なくして正確な位置を測定できない)。量子力学も相対性理論も、その発展には天文学が深く関わっている。

 天文学者というと「星を見ていて溝に落ちた人」の類の不要不急の興味で地に足の付いていない人の印象があるが、実のところ歴史的に見て天文学ほど人類社会に大きな貢献をした学問はないと言ってもいい。ただし、天文学上の成果が実社会の利益になるまでの期間は長い。100年以上は見ておく必要がある。

 天文学は長期的には確実に役に立つ。そして巨大望遠鏡は確実に天文学を進歩させる。つまり、巨大な望遠鏡は、長期的に見ると人類の未来をよりよくするための非常に確実な投資なのである。