一方、固体推進剤は、ポリブタジエンという合成ゴムに燃焼温度を上げるアルミニウム粉末と、酸化剤である過塩素酸アンモニウムを練り込んで固めたものだ。

 こちらは腐食性はなく、数年単位の長期間の継続的な保管が可能だ。ただし、材料の確実な混合や、異常燃焼の原因となる気泡を作らずにミサイル本体へ推進剤を充填して固化させる技術、長期保管中の推進剤の品質管理などに、高度のノウハウを必要とする。

 弾道ミサイルの歴史は第二次世界大戦末期にナチス・ドイツが実用化した「V2」ミサイルから始まる。V2は燃料に水を混ぜたエタノール、酸化剤に液体酸素を使用していた。その後1940年代から50年代にかけて、米ソを初めとした世界各国で液体推進剤の弾道ミサイルが開発されたが、1960年代以降は、より簡便な固体推進剤の使用が主流になっていった。

 北朝鮮はどうだったのか。この国は旧ソ連の液体推進剤を使用するミサイルの技術を入手して、ミサイルと衛星打ち上げロケットの両方へと展開してきた。昨年6月には、旧ソ連の「R-27」潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)に基づく「ノドン」より一回り大型の「ムスダン」中距離弾道ミサイルの発射実験に成功している(「北朝鮮、ムスダンの開発の異常なペース」2016年6月30日、参照)。

日本製粉体機器の密輸から固体推進剤研究が始まった

 その一方で、北朝鮮は1990年代前半から、固体推進剤の技術開発にも手を染めたようだ。

 固体燃料の製造には、アルミニウムの粉末を製造するジェットミルという粉砕機、さらにアルミや過塩素酸アンモニウムの粉末を粒状を選別するふるい分け機、粒度分布測定器などが必須だ。

 2003年6月、粉体関連機器のメーカーであるセイシン企業(本社東京)が1994年3月に北朝鮮にジェットミルを初めとしたこれらの機器合計30台以上を輸出したことが判明した。警視庁の調査によると、輸出にあたっては、朝鮮総連の傘下団体である在日本朝鮮人科学技術協会が機器を手配し、北朝鮮系の機械商社が取り引きの中間に入った。機器は、当時定期的に新潟港に寄航していた貨客船「万景峰92号」で、北朝鮮へと送られた。

 その後長い間、北朝鮮の固体推進剤研究の実態は、表に出てこなかった。ノウハウの確立を目指して、基礎的な実験を延々と粘り強く続けていたものと推測される。

固体推進剤をSLBMに適用

 固体推進剤実用化の具体的な動きは密輸から20年近くを経て、2010年代に入ってからSLBMの開発に現れた。

 SLBMはミサイルを圧縮空気で海中から海面上に打ち出し、空中で着火するコールド・ローンチという発射方法を使う。2014年10月以降、北朝鮮はこれに関連する試験を繰り返した。

 そして2015年5月、北朝鮮は「北極星1号」SLBMを潜水艦から発射することに成功したと発表し、静止画像を公表した。が、この時は画像そのものがかなり不自然で、偽造であった可能性が高い。このため本当に北朝鮮がSLBM発射に成功したかどうかは判然としなかった。