宇宙を飛ぶ真紅のロードスターの挑発
と、ここまで日経ビジネスオンラインの読者が興味を持つであろう宇宙ビジネスに関連したトピックを解説したが、おそらくファルコン・ヘビーの意義はそれに留まらない。
試験打ち上げということもあり、今回のファルコン・ヘビーにはペイロードとして、同じイーロン・マスクCEOが経営するテスラの電動スポーツカー「テスラ・ロードスター」が選ばれた。試験打ち上げでは打ち上げ能力さえ確認できればいいので、衛星と同重量の重りや水を詰めたタンクなどが使われる。今回は、話題性という意味で、マスクCEOの愛車である赤のロードスターがペイロードとなったわけである。
ロードスターの運転席には、スペースXが有人仕様のドラゴン宇宙船「ドラゴン2」のために開発している宇宙服が載せられた。それだけではなく、宇宙服には「Starman」という名前が付けられ、ダッシュボードには「Don't panic(パニックになるな)」と書き込んであった。
前者はデビット・ボウイの曲「スターマン」から、後者はSFファンや技術者の間でカルト的な人気を誇るダグラス・アダムズのSF小説「銀河ヒッチハイクガイド」からの引用である。また、マスクCEOは打ち上げ成功後でTwitterで、搭載した電子機器の基板に「Made on Earth by humans」と記入してあることを明らかにした。
打ち上げ後しばらくの間、スペースXはロードスターの各所に装備したカメラからの映像を、ウェブキャストでネット中継した。第2段は、ゆるやかに回転しながら地球から離れていく。するとロードスターの背後に地球が見えてきて、ぴかぴかに磨き上げられた真紅のロードスターの表面に地球が映るのである。このようなウェブキャストが4時間あまりも続き、世界中の人がネット経由で映像を楽しんだ。
この演出こそは、イーロン・マスクCEOとスペースXという会社にとっての真骨頂であろう。
赤いロードスターに映える青い地球という映像は、1968年12月にアポロ8号が撮影した月の地平線から見えてくる地球という劇的な写真と同等以上にショッキングなものだった。スペースXとテスラの両方にとって途轍もない宣伝効果をもたらしたといっていい。特に現在、電気自動車「モデル3」の量産に苦しみ、デリバリー遅延を引き起こしているテスラにとっては大変な大きな意味を持つ宣伝になったと言わねばならない。
同時にスペースXは、全世界に強いメッセージを送ることに成功した。映像である以上その意味は受け取った各自が読み解かねばならない。が、そこには未来へと高速で突き進もうとする強い意志を感じることができたのは間違いないところだ。
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