現行世界最大の打ち上げ能力を持つロケット

 ファルコン・ヘビーは、本体直径3.66m、全高69.2m、打ち上げ時重量が1400トンの大型ロケットだ。基本的な構成は、スペースXの主力ロケットであるファルコン9と同等の第1段の横に、同じく第1段相当のブースターを2本装備するというもの。ファルコン9の能力増強型と言って良い。

 開発開始当初は、ファルコン9の1段をそのまま第1段とブースターで使用する予定だったが、最終的に第1段はファルコン9とかなり設計の異なるものとなった。ブースターはほぼ当初の予定通りで、今回は過去に実際に打ち上げで使用・回収したファルコン9第1段に小改修を加えて使用している。

 ファルコン9の第1段は9基の「マーリン1D」エンジンを装備しているので、ファルコン・ヘビーは27基ものエンジンの噴射で離床することになる。

 エンジン数だけを言うなら、旧ソ連が第1段に30基ものエンジンを装備した有人月ロケット「N-I」というモンスターがある。1969年から1972年にかけて4回の試験打ち上げを行っているがいずれも失敗だった。これほどの多くのエンジンを使ったロケットで、打ち上げに成功したのはファルコン・ヘビーが初めて、ということになる。

 打ち上げ能力は、地球低軌道に最大63.8トン。これは日本のH-IIA(地球低軌道に10トン)の6倍以上だ。

 米国で比べても現行最大の「デルタ4ヘビー(地球低軌道28.8トン)」の2倍以上の能力で、アポロ計画に使用したサターンV(地球低軌道118トン)に次ぐ大きさである(スペースシャトルはオービター込みでは120トン以上を打ち上げていたが、約70トンのオービターは帰ってきてしまうので、打ち上げ能力としては20トン程度となる)。

 ただしこの最大打ち上げ能力は、ブースターと第1段を使い捨てにした場合の数字だ。実際にはブースターは打ち上げ地に戻して逆噴射による着陸で、第1段は洋上に配置したプラットホーム船に同じく逆噴射で着陸させてそれぞれ回収する。回収を行った場合の打ち上げ能力は非公表だが、それでも最大打ち上げ能力の半分前後の30トン以上を打ち上げられると推定されている。

 2018年2月時点でスペースXが公表しているファルコン・ヘビーの打ち上げ価格は9000万ドル(1ドル110円として99億円)と、H-IIAとほぼ同等だ。ちなみにH-IIAは打ち上げ費用85億円以下を目標として開発された。しかし、その後の打ち上げでは100億円前後の費用がかかっていると公表されている(商業打ち上げ時の具体的価格は非公表)。

 この9000万ドルという価格は「静止トランスファー軌道へ8トン打ち上げの場合」と注記されており、ブースターと第1段を回収した場合のようである。この場合の静止衛星の打ち上げ能力はH-IIAの2倍ということになる。打ち上げの重量単価はH-IIAの約半分というわけだ。

 2011年に開発を開始し、当初は2014年の初打ち上げを予定していた。しかし開発は難航し、何度も遅延を繰り返した。当初設計はファルコン9第1段を3機束ね、ブースターと第1段のタンクを配管で結合してブースター側の推進剤から使用するクロスフィードという技術を使うというものだったが、実際にはブースターからの力がかかる第1段はファルコン9の第1段のままでは済まず、大幅な設計変更を行わねばならなかった。その過程でクロスフィードもキャンセルとなった。しかもファルコン・ヘビーの開発中も、基本となるファルコン9は矢継ぎ早の改良が続いていたので、ファルコン・ヘビー開発の計画管理は相当な難事であったろうと推察できる。

静止軌道への衛星直接投入が可能=儲けの拡大

 今回の成功は、これまで「たかがベンチャー」とスペースXの技術開発を懐疑の目で見る傾向があった既存の宇宙産業にとって、同社が真に高い技術を持っており市場の覇者となる資質を備えていることを嫌でも認めざるを得ないという意義があった。

 ブースター2機の同時着陸回収も、打ち上げ後6時間も経った後の第2段第3回噴射も、高度な技術的基盤がなければ不可能である。特に今回ファルコン9も含めて同社の打ち上げでは初めて実施された第2段第3回噴射には、「第2段を使って、商業打ち上げにおいて静止衛星を直接静止軌道に送り届ける」という新たなサービスが、スペースXのメニューに加わったことを意味する。