ミートグッバイ(登場時期は不明)

 もう1つ、世間での浸透度が高いと思われるフレーズがあります。以下に、ある日の読売新聞の投書欄(2014年11月17日)を示しましょう。

 「今月、法事で親戚が集まり会食する機会があった。義兄の妻はハワイ育ちの日系3世。難しい日本語は理解できないので、義兄やその息子が通訳をする(中略・高1の)次女は『肉離れでしばらく(剣道の)稽古はしていないんです』と答えた。ここで義兄は悩んだ。『肉離れって英語でなんて言うの?』。次女は『ミートグッバイ』と即答した。その場は大爆笑。次女は自分の周りでスポーツをしている人にはそれで通じると反論するが、英語圏の人には多分通じないだろう」(括弧内は筆者が追記)

 ご覧の通り、この家族の会話には「ミートグッバイ」という直訳型フレーズが登場します。肉離れの「肉」の部分を「ミート(meat)」に置き換えて、さらに「離れ」の部分を「お別れ」と解釈したうえで「グッバイ(good-by)」に置き換えたフレーズとなります。

 このミートグッバイは、ミスタープロ野球こと長嶋茂雄さんの語録としてよく知られている言葉です。

 長嶋さんの語録には、直訳型に属するものも少なくありません。鯖という漢字の書き方を「魚へんにブルー」と表現したり、打者のことを「バットマン」と言ったり(もちろんこれはバッターというべきでしょう)、「キューバ(代表チームが使用するバット)も金属バットから木製バットに変わって」と言うべきところを「アイアンからウッドに変わって」と表現したり、それはそれは数えきれないほどの語録が残っています。

 ただ彼の語録とされるフレーズの中には、第三者の創作も混ざっているようです。例えば「失敗は成功のマザー」というフレーズが彼の語録とされていますが、正確には野球漫画「あぶさん」に出てくる長嶋茂雄の発言――つまり、作者である水島新司さんの創作――だったりするのです。

 件のミートグッバイに関しても、残念ながら長嶋さんの語録であるかどうかの確認はできませんでした。そこでここでは、ミートグッバイが長島さん本人による発言であることの情況証拠だけを記しましょう。いくつかのスポーツ紙が、長嶋発言を「前提とした」記事を発表しています。

 例えばスポニチ(2016年1月27日)は「長嶋茂雄終身名誉監督(79)が現役時代に肉離れを発症した際に『ミートグッバイ』と呼んで忌み嫌った、野球選手にとってはやっかいな故障だ」と記しています。またスポーツ報知(同日)は「『グッバイミートだよ』と、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督(79)の肉離れを意味する造語『ミートグッバイ』と微妙に異なる表現で、症状を説明した」と記していました。

 いずれにせよミートグッバイというフレーズは、平成生まれの女子校生が日常の言葉として使う程度には浸透していることになります。

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