まとめ ~「断腸」の語源~

 ということで今回は、猿の慣用句について特集しました。日本語における「猿の慣用句」には、猿をネガティブに捉えるもの(猿の尻笑いなど)とポジティブに捉えるもの(猿も木から落ちるなど)の双方が存在すること。英語などの西洋系の言語では、主にネガティブな言葉に存在感があること。その差異の背景に、おそらく猿の生息域が関係していることを紹介しました。

 慣用句の話からは離れるのですが、最後に1つ紹介したい言葉があります。それは「断腸」という言葉です。言うまでもなく「腸がちぎれてしまうほど、悲しかったり苦しかったりすること」を意味します。

 この言葉の語源に、猿が絡んでいることをご存知でしょうか。中国の古い物語集である「世説新語」に、断腸の語源となった物語が登場するのです。

――武将・桓温(かんおん)が渓谷を船で旅したときのこと。部下が、岸にいた子猿を母猿から引き離し、船に載せてしまいました。母猿は百里ほど舟を追いかけたのち、ついに死んでしまいます。死後、その母猿の腹を開けたところ、なんと腸がずたずたに千切れていました。桓温はこの話を聞いて怒り、部下を部隊から追い出したのでした――このように断腸の語源は、なんとも悲しいお話なのです。

 ともあれこの物語は「母猿」を「子供思いの母親」として描いています。筆者はこの点が、アジア文化における猿の立ち位置――つまり人間にとって猿が身近な存在であるということ――を象徴しているように思えてなりません。

 猿のことわざや慣用句から「アジア文化と猿との興味深い関係性」が見えてきた――というお話でした。