だが、家計や企業に対する貸出需要が拡大してくる状況を含め、資金の貸借市場の需給が変化し、金利が正常化した場合、この構図は大きく変わってしまう。例えば、名目金利が3%に到達したとしよう。このとき、超過準備の付利を0.1%といった低い水準に維持する場合、民間銀行は余裕資金である超過準備を現金として取り崩し、それを貸出や他の金融資産の投資に回す可能性がある。

 日本銀行法第46条第2項に基づき、現金である日銀券には「強制通用力」が認められているからである。一般的に、強制通用力を認められた貨幣による決済を、受け取る側は拒否することができない。このような状況の中、日銀が超過準備の規模を長期的に維持するには、付利を適切な水準まで引き上げる必要がある。

 少し極論だが、既述のように、長期金利や短期金利の区別がなく、市場の名目金利が一つしかないケースを考えてみよう。例えば名目金利が3%に上昇していけば、市場の裁定機能が働き、長期金利(=10年国債の金利)も3%に上昇していくので、付利も3%に引き上げる必要が出てくる。

 このとき、図表1や図表2の日銀バランスシートで何が起こるだろうか。日銀バランスシートの資産側にある国債の利回りは、金利が低いときに買い取った国債であるため、その利回り(=クーポン)は金利3%よりも低い。そのような状況で、負債側の準備を維持するために、日銀が付利を3%に引き上げると、日銀バランシートは逆鞘に陥り、日銀の収支は悪化する。最悪のケースでは日銀の自己資本を食いつぶす。

 このため、日銀の独立性を図る観点から損失補填規程が禁止されている新日銀法を改正し、政府部門は財政赤字にもかかわらず、日銀に財政的な支援(=日銀の損失補填)を行う必要性が出てくる可能性がある。だが、それは一時的な問題で、長期的には大きな問題ではない

 日銀が保有する国債には償還年限(平均償還年限=7~12年)があるため、十分時間が経つと、満期に至った国債が日銀のバランスシートから落ちていく。このような状況の中、日銀バランスシートの規模を維持するためには、政府部門が新たに発行した国債を引き受けた民間銀行から、国債の買いオペレーションを通じて日銀が買い取る必要がある。この結果、十分な時間が経ち、日銀が保有する国債の「入れ換え」が終了すると、国債の利回り(=クーポン)は付利と同じ3%になり、逆鞘は解消する

 では、何が問題なのか。それは、図表4の統合政府(政府部門+日銀)で見れば、問題の本質が理解できるはずだ。図表4の(1)ケースと(2)ケースのどちらでも、準備の9割以上を占める超過準備の付利が長期金利と概ね同じとなれば、「超過準備」を維持することは国債を発行しているのと実質的に何も変わらない

 もっとも、厳密には短期金利と長期金利の区別はあるので、金利が正常化した場合、長期金利よりも付利を若干低い水準に維持できる可能性もある。だが、資金の貸借市場の需給が需要増に傾くと、短期金利の下限であるコールレートも長期金利と同様の水準まで上昇する。これは、図表6における1986年から1995年頃の長期金利やコールレートの推移を見れば一目瞭然だ。この時、超過準備の規模を長期的に維持するためには、最低、コールレートの水準近くまで付利を引き上げる必要がある。

 また、既述の繰り返しだが、日銀が保有する国債は償還年限があるため、十分時間が経ち、何もしないと、国債は日銀バランスシートから落ちていく。その際、資金の貸借市場の需給関係が需要増に傾き、金利が正常化する中で、日銀が超過準備の規模維持のために必要な国債の買いオペレーションを実施しても、政府部門が国債発行計画で発行した新たな国債の利回り(=長期金利)と比較して、超過準備の付利が適切な水準まで引き上げられず、付利が見劣りする場合、民間銀行は政府部門から引き受けた新たな国債を保有し続け、日銀の買いオペレーションには応じない可能性もある。これを回避するためにも、付利を適切な水準まで引き上げる必要がある。

 以上の内容が理解できれば、「日銀が国債を全て買い切れば、国民負担無しに財政再建が終了する」旨の言説がウソで誤解であることが、改めて分かるはずである。

 例えば図表2で、国債の買いオペを行い、日銀が民間銀行から国債300を買い取り、政府部門が発行する全ての国債を日銀が買い切るケースを考えてみよう。この場合、図表4の導出と同様、統合政府バランスシートの資産側と負債側の両方に記載がある政府預金50や国債800を相殺すると、統合政府と民間銀行のバランスシートは図表7になる。

 この図表の場合でも、金利が正常化した場合、日銀が超過準備の規模を長期的に維持するには、付利を適切な水準まで引き上げる必要がある。超過準備の付利が長期金利と概ね同じとなれば、「超過準備」は実質的な国債発行と概ね同等になる。一方、もし付利を適切な水準まで引き上げない場合、それは預金課税と実質的に同等になる。すなわち、「日銀が国債を全て買い切れば、国民負担無しで財政再建は終了する」旨の言説はウソで誤解である。