例えば市場の名目金利が3%に上昇していけば、市場の裁定が働き、長期金利(=10年国債の金利)や貸出金利も3%に上昇していく。このため付利も3%に引き上げる必要が出てくる。

 もし付利を3%に引き上げない場合、預金金利も3%を割ってしまう。図表4の(2)ケースで考えてみよう。長期金利(=国債の利回り)や貸出金利が3%で、もし付利がそれよりも低い1%であれば、民間銀行が得る金利収入は41(=350×1%+300×3%+950×3%)になる。

 民間銀行の利潤はゼロとして、この金利収入の全てを預金者に還元する場合、預金金利は2.56%(=41÷1600)と計算できる。付利が1%よりも低いゼロであれば、預金金利は2.34%になる。極論だが、マイナス金利政策(NIRP)で付利を▲15%にすれば、預金金利は▲0.93%にできる。

 なお、「純粋期待仮説」に従えば、この状況では裁定取引が可能なので民間銀行から預金が流出する可能性があり、市場金利の再調整が起こるはずである。一方、「市場分断仮説」がある程度成立すれば、預金金利を低めに抑制できるかもしれない。いずれにせよ、このような形で付利を市場の名目金利よりも引き下げて抑制する場合、預金金利が低下する。それは預金に対して課税するのと実質的に同等であることを意味する。

適切な付利は短期国債の発行と同じ

 これまでとは逆に、金利が正常化した場合、付利を適切な水準まで引き上げると何が起こるだろうか。この場合も、長期金利や短期金利、貸出金利や預金金利の区別がなく、市場の名目金利が一つしかないケースで考えると、物事が分かりやすくなる。

 例えば、長期金利(=国債の利回り)や貸出金利が3%のとき、付利を3%に引き上げる場合を考えてみよう。この場合、図表4の (1)・(2)のどちらのケースにおいても、統合政府(政府部門+日銀)バランスシートの負債側にある国債と準備のコストは同じ3%になる。

 厳密には、超過準備の付利は、短期国債の利回りやコールレートなどの「短期金利」と同水準となる。これは統合政府で見ると、「超過準備」を維持することは国債(短期国債)を発行するのと概ね同等になることを意味する。

「超過準備」を維持することは国債発行と同じ

 なお、日銀が付利を適切な水準まで引き上げない場合、民間銀行は余裕資金(=超過準備)を現金として取り崩して貸出や内外の投資に振り向ける可能性があるかもしれない。現時点で発生する確率は低いと考えるが、この点も重要なので順番に説明しよう。

 まず、既述の通り、付利を最初に導入した2008年11月以前、超過準備の金利コストはゼロだった。このため、長期金利よりも付利をずっと低い状態に維持することは可能に思えるかもしれない。だが、それは超過準備が現在よりも遥かに小さい規模だったときの議論で、現在は状況が本質的に異なる。それは、図表6から読み取れる。

 図表6には、1986年7月から2016年1月までの期間における「長期金利(=10年国債の金利)」や「コールレート」、「準備(=日銀当座預金)」「付利」「消費者物価総合指数(前年同月比)」の推移をプロットしている。

 このうち「準備(=日銀当座預金)」の規模は、図表6縦軸の右目盛で表している。、2008年11月以前はピーク時でも約30兆円に過ぎず、超過準備の付利はゼロでもかまわなかった。

 また2016年1月末時点で「準備(=日銀当座預金)」の規模は約260兆円(うち超過準備は約250兆円)に到達している。図表6から読み取れるように、コールレートは0.074%まで低下しており、これは2016年1月までの付利(0.1%)に近い値である。

図表6:10年国債の金利とコールレート等の推移
(出所)財務省・日銀・総務省データから筆者作成

 さらに、現在は家計や企業に対する貸出が伸びず、名目金利が概ねゼロに張り付いているために、余裕資金(=超過準備)を振り向ける適切な資金運用先が十分に確保できない状況にある。このため、付利が低水準でも、それで金利収入を得ることができるので、民間銀行は余裕資金を超過準備に積み立てている。