ところで、超過準備で付利を得る行為は、民間銀行などの金融機関から見る場合、短期国債や政府短期証券、コール市場で資金運用することで概ね代替できる。超過準備の「付利」は、短期国債の利回りやコールレートなどの「短期金利」と同水準で推移するからだ。

 このため、日銀が国債の買いオペで国債を買い取り、準備を民間銀行に提供する政策は、統合政府(政府部門+日銀)の負債コストの一部を「長期金利」から「短期金利」に切り換える操作を意味する。

図表5:日本国債のイールドカーブ(単位:%)
(出所)財務省

 では、長短の金利を切り換えることで、負債コストを節減できるのか。答えは予測不能だが、市場がほぼ完全で裁定が機能しているならば、長短の金利切換えで負債コストを節減するのは難しいだろう。もし短期金利への切り換えで負債コストが確実に削減できるならば、そもそも長期国債の発行をやめ、国債発行を全て短期国債で発行すればよい。だが、そんな事が確実に予測できるはずがない。

マイナス金利政策は預金への課税と同じ

 ちなみに、もし金利が正常化する中で、「超過準備」の付利を市場金利との比較で適切な水準まで引き上げずに抑制する場合、政府部門と日銀の統合政府で見ると、それは預金に対して課税するのと実質的に同等となる。一方、「超過準備」の付利を適切な水準まで引き上げる場合、統合政府で見ると、「超過準備」を維持することは国債(短期国債)を発行することと概ね同等になる

 これを理解するためにイールドカーブについて説明する。イールドカーブが形成される理由として、通常、「純粋期待仮説」「流動性プレミアム仮説」「市場分断仮説」の3つの仮説がある。

 「純粋期待仮説」は「長期金利は将来に予測される短期金利の平均の期待値で決まる」というもの。例えば、1年物・金利が2%、2年物・金利が3%であれば、1年後の1年物・金利は4%(=3%×2年-2%)になると市場は予測していると考える。理由は単純で、1年物・金利2%と1年後の1年物・金利4%で運用した金利収入の合計と、2年物・金利3%で2年間運用した金利収入の合計が一致するからである。

 「流動性プレミアム仮説」は、「金利の期間が長くなるにつれ、将来の金利変動で損失を被る不確実性があり、そのプレミアム分だけ、短期金利よりも長期金利の方が高くなる」というもの。「市場分断仮説」は「短期金利と長期金利は別々の市場でその間には裁定が機能しない」という説だ。取引コストの存在や諸規制のために、現実には資金の自由な移動が妨げられているのが理由である。

 これら3つのうち、実証分析などの結果、有力とされているのが「純粋期待仮説」である。

 以下では議論を分かりやすくするため、少し極論だが、短期金利は一定(例:3%)であるとしよう。その場合、「純粋期待仮説」に従えば、長期金利も一定(例:3%)になる。これは「イールドカーブ」がフラットの状況に相当する。また、貸出金利や預金金利の区別がなく、市場の名目金利が一つしかないものとする

 ここで、国債の金利コスト(=長期金利)と準備の金利コスト(=付利)が大きく異なれば、図表4の (1)ケースと(2)ケースにおける統合政府(政府部門+日銀)の負債コストは大きく異なってくる。例えば、長期金利よりも付利をずっと低い状態に維持できれば、統合政府(政府部門+日銀)の負債コストは (1)ケースよりも(2)ケースの方が低くなり、負債コストを軽減できる。

 では、金利が正常化した場合に、長期金利よりも付利をずっと低い状態に維持すると、何が起こるだろうか。結論を先に述べると、民間銀行が保有する預金に対して統合政府(政府部門+日銀)が課税するのと同等になる。