買いオペしても国債を引き受ける原資は増えない

 この問題を考える時、政府が発行する国債残高を賄っている原資は基本的に預金であり、金融政策はその原資を増やすものではないという事実も重要である。この事実は、日銀と民間銀行の統合バランシートを見ると簡単に理解できる。

 図表2の日銀バランスシートと民間銀行バランシートを統合し、資産側・負債側の両方に記載のある準備を形式的に相殺すると、以下の図表3となる。この統合バランシートは、負債側の現金100(=市中に流通している日銀券)、政府預金50、我々の預金1600が、政府が発行した国債残高800、企業などへの貸出950を支えていることを意味する。

 図表1における日銀と民間銀行のバランシートを統合しても、図表3と全く同じバランスシートが得られる。この事実は、政府が発行する国債残高を賄っている原資は基本的に預金であり、買いオペなどの金融政策はその原資を増やすものではないことを意味する。

債務を長期から短期に切り替えても財政は再建できない

 第2の理由は、もし金利が正常化する中で、市場金利との比較で、「超過準備」の付利を適切な水準まで引き上げずに抑制する場合、政府部門と日銀の統合政府で見ると、それは預金課税を行っているのと実質的に同等なためである。また、「超過準備」の付利を適切な水準まで引き上げる場合、統合政府で見ると、「超過準備」は実質的に国債発行(短期国債の発行)と概ね同等になるためである。この意味について、順を追って説明しよう。

 理解を深めるため、図表1と図表2の各ケースについて、政府部門と日銀の統合政府バランスシートを考えてみよう。統合政府(政府部門+日銀)バランスシートの資産側と負債側の両方に記載がある政府預金や国債を相殺すると、各ケースにつき、以下の図表4が得られる。

 図表4から読み取れる事実のうち、重要な視点は2つある。一つは、図表4の(1)・(2)のどちらのケースも、統合政府(政府部門+日銀)バランスシートの負債側にある「国債」と「準備」の合計650は、民間銀行バランスシートの資産側の「国債」と「準備」の合計650に一致し、その資産を支えているのは民間銀行バランスシートの負債側にある我々の「預金」1600であるという視点である。

 もう一つは、統合政府(政府部門+日銀)バランスシートの負債側にある「現金」「国債」「準備」のうち、現金の金利コストは「ゼロ」、国債の金利コストは「長期金利(例:10年国債の金利)」、準備の金利コストは「付利」であるという視点だ。

付利とは何か

 ところで、「付利」とは何か。付利とは、法定準備を除く日銀当座預金に付く金利をいう。念のために簡単に補足しておこう。まず、1957年の「準備預金制度に関する法律」に基づき、民間銀行は家計や企業から預かった預金の一定割合を日銀当座預金に積み立てる義務が課された。これを「法定準備」という。

 一方、超過準備とは「民間銀行等の金融機関が法定準備を超えて日銀当座預金に預けている余裕資金」をいう。2016年1月末時点の日銀当座預金は約260兆円、法定準備は約10兆円であるため、超過準備は約250兆円という異常な規模に到達している。

 本来、法定準備を含む日銀当座預金は無利子であるが、2008年11月以降、超過準備の全てに金利を付け(=付利)、0.1%の付利を設けた(注:付利は2008年11月から2009年4月までの時限措置のはずであったが、その後も延長)。

 当時、0.1%の付利を設けたのは、コール市場が機能不全に陥る可能性を懸念したからであろう。超過準備が異常な規模に膨張する中、超過準備に付利を設けない場合、「イールドカーブ*1の起点」に位置付けられる「無担保コールレート(翌日物)」(=民間銀行を含む金融機関同士で短期資金の貸借を行う「コール市場」での金利)などが金融政策当局の想定を超えて低下することが想定された。

*1:短期金利や長期金利といった期間別の利回り曲線を「イールドカーブ」(図表5参照)という。

 もっとも、デフレ下で名目金利が概ねゼロである状況では、国債の金利コスト(=長期金利)も、準備の金利コスト(=付利)も概ねゼロであるから、図表4の(1)ケースと(2)ケースにおける統合政府(政府部門+日銀)の負債コストは概ね同等となる。