それからの彼の行動力は凄まじい。新しいことを成功させる人に共通していることです。本・文献を漁り、行きついた先が、秋田県大潟村の無施肥・無農薬自然栽培の第一人者である石山範夫さん。何年経っても腐らない奇跡の米づくりで知られています。

 そこで学んだ最大のこと。それは、金銭感覚をもつ百姓であれということです。石山さんは助成金を一切もらわない。百姓は、自分で米をつくり、その米を自分で売らなければ一人前と言えない。

 いま、第一次産業から第六次産業へと言われていることを、とっくに実践していたのです。

農業で地域の活性化

 中川さんに電流が走りました。これしかない、農業が面白い職業になるためには。

 元々、彼の農業をやる最終ゴールは地域の活性化です。ただ、いい米をつくる、農家を何とかするのではなく、その地域の人がみんなで地元を面白くすること。そうすれば、地域の文化も伝統も継承される。その地の環境が保全される。農業には、とてつもないポテンシャルがある、そう思ったそうです。その結果として、若い世代が戻り移住者もふえる。

 いい米をつくるのは大事だけれど、それだけでは地方は盛り上がらない。それが中川さんの信念でした。人とコミュニケーションを取るのがうまい彼を見ていると、それが良く理解できます。農業だろうと、ITだろうと、サービス業だろうと、この信念と行動力は世の中を変えていく人に共通しています。

 自然栽培・天然農法を志向する中川さんの心配事はもうひとつ。近頃は、慣行栽培(注:一般的な農法のこと)の他に、有機栽培、無農薬栽培、アイガモ農法、永田農法、炭素循環農法、EM農法、バイオダイナミック農法など新しいやり方が混在しています。

 そのどれも素晴らしい信念をもってやられていますが、ややもすると理解されずに孤立しやすい。それだけに、農薬や化学肥料を使う慣行栽培の農家と相容れないことが多いそうです。

 そうなると、お互いのコミュニケーションもない。売り先も価格も違う。ときには、諍いのタネになることも。なにしろ、田んぼはつながっていますから。

 これでは、地域全体の活性化ができない。この実情が日本の農業を停滞させている一因であると、中川さんは思っています。

コメよりも大切なのがコミュニケーション

 それを何とか突破するために、彼は自分と違う農法をしている農家の方ともコミュニケーションをとることにしました。自分は使わない農薬会合にも顔を出す。米づくりに対する考え方が違っても、農家同士としてつきあいを欠かさないのです。

 これこそが、中川さんの他の農民と違うところ。こだわりの米づくりの人はたくさんいるのですが、ここまで行動できる人は少ないようです。

 とはいえ、彼の追求する農業は、天然農法・自然栽培。その理由は、単にカラダにいいからというだけではありません。未来永劫に持続できるかどうか、その一点です。

 たとえば、農薬や肥料を使っていたとしましょう。しかし、震災や社会問題が起きて、それらの材料が手に入らなくなれば、その農法は中断してしまいます。つまり、外部に依存した農法は危機と背中合わせ。予測できないような要因によって、困難な状況に陥りやすいのです。TPPや補助金の変更なども重大なリスクになるかもしれません。

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