脱北者の雇用が社会問題に

 世界のメディアがテ公使一家の脱北に注目していた8月23日、事故で亡くなった30代脱北者の葬式が韓国の仁川市で営まれた。北朝鮮で産婦人科をしていたこの脱北者は、韓国では医師と認められず、清掃作業員として働いていた。ビルの窓ガラスを拭く作業中に転落して死亡した。いつかは韓国で医師免許を再取得し、北朝鮮にいる両親も脱北させるのが夢だったという。この事故死をきっかけに韓国では、増え続ける脱北者の生活や貧困が問題になっている。

 統一部が発表した統計によると、韓国に入国した脱北者は2016年6月時点で累計2万9543人に上る。韓国に入国する際に、韓国での生活に馴染めるよう教育を受け、定着金を支給されてはいるが、その後も韓国で生活するためには職が必要である。

 統一部は「北韓離脱住民の保護及び定着支援に関する法律」に基づいて、脱北者1人当たり約200万円を定着金として支給している。一時に全額を支給するのではなく、約130万円は政府が提供する住宅の敷金として住宅会社に預け、残りの約70万円は給料のように分割して少しずつ支給する。この一時金が尽きる前に脱北者が就職できれば問題ないのだが、脱北者が3万人近くなるとそう簡単には就職できない。言葉は通じても、違う体制の下で何十年も生きてきた人が韓国での生活に慣れるにはかなりの時間がかかる。

 脱北者を優先的に採用する社会貢献企業もある。しかし、提供できるのは清掃員、工場での単純作業、建設現場の労働者といった職業ばかりで、北朝鮮時代に身につけた技術などを韓国で生かすことができないのが現状である。

 統一部傘下の南北ハナ財団が2015年末、15歳以上の脱北者2444人を対象に生活実態調査を実施した。これによると、脱北者の61%が自分を「下流」とみなしていた。「中流」は36%、「上流」は1%だった。同じ時期に同じ質問を韓国人したところ、自分を「下流」と見る人は46%、「中流」は52%、「上流」は2%だった。脱北者のほうが自分を下流と思う割合が高かった。

 それでも脱北者の63%は、韓国での生活に満足していると答えた。また、脱北者の60%は、自分は下流でも子供世代は経済的に良くなると答えた。同じ質問に対して韓国人は31%だけが子供世代は経済的に良くなると答えた。

 南北ハナ財団は「自分は苦しくても子供は経済的に良い暮らしができるはず」という希望が脱北につながっていると分析している。一時期飢えを逃れるため脱北する人が多かったが、最近は「北朝鮮での生活も悪くないけど、子供にはもっと良い生活をさせたい」との理由でエリート層が脱北する「移民型脱北」が増えている。これは、北朝鮮の体制に穴があいた、北朝鮮当局が情報規制をしても北朝鮮の人々は韓国の暮らしぶりをよく知っている、住民の監視が緩くなった、などの表れと見ることもできる。