韓国でも日本の参議院選挙が話題になっている。韓国メディアは「日本の運命を決定する選挙」「日本の改憲が決まる選挙」だとして、選挙運動の様子を細かく報じている。各新聞の東京特派員は安倍晋三総理の選挙運動を追いかけ、演説でどんなことを話したのか詳細にレポートしている。
公営放送KBSニュースは7月3日、バングラデシュで日本人7人が犠牲になるテロ事件が起きたにもかかわらず、一部閣僚は選挙運動に夢中だったと報じた。
韓国でも高まる18歳投票熱
日本で18歳から投票できるようになったことも注目を集めている。韓国は19歳から投票できるが、日本と同じように18歳から投票できるようにすべき、という声が後を絶たない。
「大学修学能力試験」を前に追い込みをかける受験生。もし、この時に選挙があったら。。。(写真:ロイター/アフロ)
中央選挙管理委員会のキム・ヨンヒ事務総長が6月28日に国会で、個人的な意見と断りつつも「選挙年齢の引き下げを検討するタイミングになった」と発言した。18歳への引き下げに反対する意見があることを紹介しつつの発言ではあるが、政治的に中立な立場にある中央選挙管理委員会事務総長の発言だけに韓国中が驚いた。いよいよ韓国も18歳から投票できるようになりそうだ。
韓国で18歳投票が実現すれば、有権者が60万人ほど増える。4月に行われた総選挙の投票動向をあてはめれば、次の大統領選挙では約35万人の18歳が投票に参加することになる。大統領選は保守派への支持と進歩派への支持が拮抗し、得票率1%前後の差で当落が決まると見込まれている。18歳の票は各党にとって重要な意味を持つ。
韓国でも18歳から投票できるようにしようという議論が数年前からあった。しかし18歳は高校3年生。教育熱の高い韓国では「受験勉強を優先すべき高校生に選挙運動はできない」との考えが根強くある。このため、全ての18歳に選挙権を付与するのか、高校生を除く18歳に付与するのかを巡って話がまとまらず、結局「19歳から」の状態が続いている。
韓国では「若い人ほど進歩派を支持する」傾向があるため、保守派のセヌリ党は投票できる年齢の引き下げに反対の立場だ。一方、進歩派である「共に民主党」は賛成を掲げている。
身内を補佐官にすることに批判集まる
韓国の国会では、投票できる年齢を巡る議論だけでなく、「国会議員の特権乱用を防ぐ」ことも大きな議論のテーマになっている。
4月に総選挙が終わり、やっと国会が動き始めたと思ったら、議員の補佐官が一斉に辞表を出す騒ぎがあった。この数は7月1日時点で30人近くに上る。
韓国では公設秘書、私設秘書の区別なく議員が補佐官4人と秘書3人、有給インターン2人までを自由に採用できる。補佐官と秘書は特別公務員の扱いで、給料も大手企業の管理職並みで悪くない。韓国では、補佐官が主人公の大ヒットドラマがあり、国会で補佐官がどういう役割をするのかはよく知られている。
昔からの慣行で、議員の多くが自分の子供や親戚を補佐官に採用し、勤務実績がないのに給料を支払うケースがたびたび問題となってきた。
韓国で6月末、共に民主党のソ・ヨンギョ議員を政治資金法違反で、「司法試験を準備する人の集い」が告発した。この集いは、「ソ議員が自分の娘を補佐官として2013年に採用。娘は補佐官の経歴を利用してロースクールに合格した」「ソ議員は娘と他の補佐官の給料を自分へ寄付するように指示した。これは政治資金法違反」だと主張した。
政治資金法は、支持者1人が一人の国会議員に年間500万ウォン(約45万円)まで寄附できると定めている。しかしソ議員は自分の娘と他の補佐官からそれぞれ年間500万ウォン以上を受け取った可能性が高いと「集い」は主張している。
この告発がきっかけとなり、韓国では自分の子供や親戚を補佐官に採用する、補佐官の給料の一部を議員への寄付金として納める慣行をなくすべきと批判する世論が広がった。
インターネット掲示板やポータルサイトの記事コメント欄には以下の意見が相次ぎ炎上した。
「補佐官は採用試験を行い実力のある人を採用すべき」
「働いた分給料を払え」
「能力主義ではなく縁故主義で動く国会だから韓国がだめになるのだ」。
とばっちりを恐れた、議員の親戚である補佐官らが国会事務処に辞表を出した。7月1日付のJTBCニュースによると、短期間のうちに30人もの補佐官が辞職したのは国会が始まって以来だという。
補佐官に試験制度の導入を求める声も
7月1日にはチョン・セギュン国会議長が、「国民の目線に合わせて、国会議員の倫理規定を積極的に改定する。学界、市民社会の意見を聞いて改訂案を作る」と発表した。セヌリ党と共に民主党の党代表はこれを受けて急いで謝罪をした。両党とも、複数の議員が親戚を補佐官に採用しただけでなく、補佐官の給料を長年にわたり寄付金として受け取っていたことが発覚したからだ。
もちろん、親戚が補佐官になることであうんの呼吸で議員が活躍できるというメリットもある。複数の韓国メディアによると、実力のある有能な補佐官がたまたま親戚だった、という事例もある。10年以上補佐官としてのキャリアがあり、実力を買って自分の補佐官として採用したのに、親戚という理由だけで非難された事例もあった。一概に親戚だから補佐官に採用してはならないと決めていいのかという声もある。
韓国メディアは、議員の秘書(補佐官)制度に関する海外の事例に注目した。米国も日本も家族を秘書として採用した場合は、議員個人が給料を払わないといけない。
日本の場合、公設秘書は資格試験に合格した者を採用する。韓国もそのようにすべきだと提案するメディアも複数ある。現行は、補佐官と秘書は公務員であるにもかかわらず、採用試験を課すこともなく、議員が恣意的に採用している。補佐官の給料を議員が勝手に自分への寄付金にしてしまうのも、採用過程に問題があるからかもしれない。ちなみに、解雇も議員の都合で容易にできる。
現役補佐官が見た実態
CBSラジオの7月1日付の番組に、声を変造した現役補佐官が匿名で登場した。この補佐官は、国会で起きている親戚補佐官採用問題について、以下のように主張した。
「実力のない人に権限を与えることが問題だ。何も知らない補佐官が首を突っ込むと余計な仕事が増えるからだ。給料だけもらって出勤しない親戚補佐官の方がありがたい」
「複数の親戚を交互に採用する議員もいる。A議員の親戚をB議員が採用し、B議員の親戚をA議員が採用するケースもある。こうすれば見つからない。親戚の代わりに後援会長の子供を補佐官にする議員も多い」
「『親戚を補佐官や秘書に採用してはならない』というルールを作るのではなく、採用試験や採用条件を厳しくすべきである。例えば、政策立案や法律に関する仕事の経験が5
年以上必要とか」
「補佐官の実力を評価して採用するようになれば、議員と補佐官の関係も変わる。議員が補佐官や秘書を突然解雇することも、補佐官の給料を自分のものだと考えることもなくなる」
不逮捕特権を放棄へ
韓国では補佐官と秘書を議員の指名で採用することが議員の特権に当たるとして、セヌリ党と共に民主党が協議し剥奪することにした。
もう一つ、韓国国会議員の代表的な特権に「不逮捕特権」がある。これは日本と同じ制度で、現行犯でない限り、国会議員は国会会期中に逮捕・拘束されない。
7月1日付のMBCニュースによると、国会議長とセヌリ党、共に民主党に党代表が会合し、不逮捕特権を放棄、議員の特権乱用を防ぐことに合意した。MBCによると、今まで国会に提出された議員の逮捕同意案は57件、このうち可決したのは13件に過ぎず、身内をかばう「防弾国会」と批判され続けてきた。
憲法で定められた不逮捕特権なので、そう簡単になくすことはできないとみられるが、議員らが権威意識を自ら捨てようとしていることは評価すべきである。韓国では、今度こそ議員が変わり、国会が変わり、韓国全体が公正な社会に変わると期待する声が広がっている。
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