韓国の検察がロッテグループの捜査に乗り出した。
背任と横領の容疑だ。
コンビニを運営するなど身近な存在である同グループへの捜査に韓国中が注目している。
レイムダック化が進む朴政権が「経済民主化を進めていることをアピールする策」と見る向きもある。
この10日ほど、韓国のテレビも新聞もネットも、検察による財閥秘資金(裏金)捜査の話題で持ちきりだ。6月10日と14日、ソウル中央地方検察庁は3000億ウォン(約270億円)を超える背任と横領の疑いで、ロッテグループの重光武雄(辛格浩)総括会長と重光昭夫(辛東彬)会長のオフィスと自宅、ロッテグループ系列会社、役員の自宅など17ヵ所の家宅捜索を一斉に行った。複数の韓国メディアによると、検察は家宅捜索に約250人を動員。押収した資料は会計書類やパソコン、携帯電話など1トントラック7台分に及んだ。
ロッテの関連施設に入る韓国の検察(写真=YONHAP NEWS/アフロ)
ロッテグループは韓国財界5位の財閥である。「韓国2万企業研究所」の調査によると、ロッテグループの2015年売り上げは前年比2.3%増の約69兆ウォン(約6.2兆円)、営業利益は同25.8%増の約4兆ウォン(約3.6兆円)。ロッテは、デパート、免税店、スーパー、コンビニ、インターネットショッピングなどの流通、ホテルとロッテワールドといったレジャー、製菓や食品、建設など、幅広いビジネスを手掛けているため、韓国人なら誰もが毎日のように利用する。庶民の生活とも密接な関係にあるロッテの裏金疑惑捜査だけに、韓国中が興味を持っている。
17カ所を一斉に家宅捜索
公営放送のKBSニュースは6月20日、検察によるこれまでの捜査を振り返る特集を放映した。KBSによると、検察がロッテグループを捜査するという噂が2016年初めから流れ始めたという。大規模な捜査は6月10日の家宅捜索を皮切りに始まった。検察は捜査に着手してすぐ、ほとんどのロッテ系列会社を家宅捜索した。
KBSは、「会長室」と書かれた張り紙が貼ってある段ボール箱が検察のトラックに次々運び出される映像を見せながら、次のように紹介した。
「検察は、ロッテグループが(1)中国進出で負った損失額を膨らます、(2)グループ会社間で本来なら不要な取引を繰り返し、その間にマージンを蓄積する手法で裏金を作ったと疑っている」
「検察は会長ファミリーの資金管理人をしていたとみられるロッテグループの役員らを次々に召還するとしている。検察は速戦即決で捜査すると明かした」
「検察が家宅捜索をしたとき、既に総括会長室の個人金庫は空っぽだった。しかし、金庫の中身と思われる現金30億ウォン(約2.7億円)と通帳などが、ロッテグループ役員の妻の妹の家で箱に入ったまま見つかった。検察はこのお金をロッテオーナーファミリーの裏金の一部とみている」
過熱する報道の情報収集力は検察以上?
朝鮮日報、東亜日報、聯合ニュースなど、韓国のあらゆる新聞やケーブルテレビの報道番組もロッテグループの「疑惑」について連日報道している。ニュースの視聴率やインターネット版記事の閲覧数競争に火がついてからは、「巷の噂によると」といったどこまで真実かわからない記事まで登場した。
6月20日付のヘラルド経済によると、ロッテグループは証拠隠滅のため、社員のパソコンのハードディスクを4月から破壊していたという。重光武雄総括会長は検察の家宅捜索が始まる前日である9日にソウル大学病院に入院。18日には入院先を別の病院に変えた。こうした記事を読んでいると、韓国ドラマを観ているような気分になる。
6月20日付ファイナンシャルニュースによると、検察は「韓国メディアの捜査状況に関する報道が正確すぎて驚いた。間違った報道もあるが、何が間違いなのかは教えられない。『捜査状況が露出してしまう』とロッテグループの弁護団が抗議したから」と発言したそうだ。
さらに、「韓国メディアが報道した疑惑の中には検察が知らなかったロッテグループの事情もある。検察は、捜査対象として今後検討すべき事案も多いとみなしている」と報じた。韓国メディアの過熱する報道が検察の捜査を助けているということなのだろうか。
CJグループへの捜査との類似点
6月18日付の朝鮮日報に面白い記事が登場した。検察が進める今回の捜査が3年前に行なわれたCJグループに対する捜査に似ているという記事だ。CJグループ捜査は、大規模な家宅捜索を皮切りに会長をターゲットにした捜査が急展開。捜査開始から1ヵ月半あまりで検察はCJグループのイ・ジェヒョン会長を拘束した。容疑は会社資金の横領と背任、租税逃れ。朝鮮日報は、CJへの捜査とロッテへの捜査を以下のように比較した。
「CJグループへの捜査は新しい検察総長が就任して初めての企業捜査だったため、確実な証拠を確保してから捜査に乗り出した。ロッテグループへの捜査も新しい検察総長の就任後初めての企業捜査なので、既に十分な内部捜査をしているはず」
「韓国政府が経済活性化にすべてをかけている中、検察が解剖できる(捜査できる)企業はそう多くない。国家経済に影響を与えない範囲で、経済民主化(大企業による独占や横暴をなくし公正取引を実現すること)の価値を最大限見せつけられる企業を捜査しないといけない。CJもロッテも輸出企業ではなく内需中心企業。捜査によってロッテのビジネスが一時的に被害を受けるとしても、それが国家経済に与える影響はそれほど大きくない。検察の負担も重くない」
「ロッテは兄の辛東主(重光宏之)SDJコーポレーション会長が検察の友軍として手を挙げており、捜査がしやすい。兄弟または家族間で権力闘争を経験した財閥は(対立する勢力がお互いの不正を暴露するので)検察が残らず捜査し、裁判でも(横領や背任で)有罪にした。信憑性の高い内部告発を受けて捜査をするからだ」
財閥捜査は、経済民主化をアピールする隠れ蓑?
朝鮮日報の記事は、韓国政府が公正取引のルールを確立するため努力していることを見せるために、財閥グループに対して大々的な捜査を行なったと受け取れる内容である。
与党セヌリ党のチョン・ジンソク院内代表(党の代表議員、党代表とは別)も6月20日、朝鮮日報の記事内容と似た発言をした。チョン院内代表は、就任後初の演説で「正義のために財閥改革が必要」だと強調しつつ、ロッテグループの捜査を取り上げた。
チョン院内代表は、以下のことを強調した。
「90歳を超えた父親と二人の息子がグループの経営権を巡り韓国と日本を行きかいながら喧嘩している」
「資本主義社会において所有権は尊重されるべきだが、(設立者の)子供や一家、親戚までが経営に関与するのは問題」
「総帥一家が企業を分け合い経営権を行使するので、(家族が経営する)系列会社にしか仕事を発注しない不公正な慣行が発生している」
「(経営)能力のない財閥2世、3世や一家親戚まで経営に関与する放漫な家族経営風土をなくすことから財閥改革を始めるべき」
「不法(もしくは、合法であるが好ましくない方法)による富の世襲、家族会社にだけ仕事を発注する不法なやり方で富を増殖させることや、(財閥の)無分別な事業拡張は必ず規制されるべき」
「セヌリ党は、経済全体のパイを大きくする成長戦略から、そのパイをどう分けるのか分配を重視する戦略に変えるべきである」
韓国メディアの報道や与党セヌリ党のチョン院内代表の発言からわかるように、韓国は「公正」「正義」「分配」という言葉に敏感になり始めた。しかし今まで財閥改革を名乗る捜査は、ほとんどが竜頭蛇尾で終わってきた。不正が見つかっても財閥ファミリーのトップが会長の座を追われることはない。有罪になって逮捕されても釈放されるとまた同じことを繰り返す。ロッテグループへの捜査は韓国経済の構造を変える財閥改革のきっかけになるのか。捜査の行方が気になるところだ。
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