総選挙が終わって以降、韓国メディアでは日本に関する報道が増えている。総選挙結果を日本がどう見ているのかに加えて、熊本の地震や日韓交流について連日報道している。
4月22日、韓国ソウル郊外にある城南市空軍基地から熊本に向け軍の輸送機2機が飛び立った。韓国政府は熊本で地震の被害にあった人たちへの支援物資として毛布、テント、ミネラルウォーター、すぐに食べられるインスタント食品など10万ドル分を輸送した。別所浩郎駐韓大使が城南市空軍基地を訪れ、関係者に感謝の言葉を述べた。届けられた物資は、自衛隊の車両によって避難所に運ばれることになっている。
熊本に支援物資を運ぶ韓国軍の輸送機(提供:防衛省統合幕僚監部/ロイター/アフロ)
「1杯のかけそば」ならぬ「2杯のおかゆ」
20日には大韓航空機が、仁川発福岡行きの定期便にミネラルウォーター2万4000本を積んで輸送。トラックで熊本まで届けた。19日にはアシアナ航空機が、仁川発福岡行きの定期便に毛布1000枚などを載せて熊本に届けた。熊本県に義援金1000万円を贈ってもいる。同社は仁川=熊本便を週に3便運航していることもあり、熊本とは関係が深い。
韓国外交部(韓国の「部」は日本の「省」)の発表によると、18日には朴槿恵大統領が安倍晋三総理へお見舞いの電報を送った。地震で多くの人命が失われたことに深い哀悼の意を示すとともに、韓国政府として支援する意向を伝えた。15日には尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官が岸田文雄外務相に電報を送り、犠牲者の冥福を祈るとともに、遺族や負傷者へのお見舞いの気持ちを伝えた。
4月17日付聯合ニュースは「家族8人でおかゆ2杯、もっと欲しいという人は避難所にいなかった」という見出しで熊本の様子を報じた。熊本の人たちは取り乱すことなく秩序を守り、4人当たりおかゆ1杯しか食べられなくても助け合っていた、という内容だった。韓国では、熊本の人々の落ち着きぶりを称賛する声が相次いでいる。
熊本の地震の余波で、韓国の南部でも震度1~2の揺れがあった。韓国には地震がないと安心していたが、今回の件でそうでもないことがわかった。韓国と九州はとても近いため、九州で地震や噴火が起きると、釜山を中心とした韓国南部でも揺れが生じる。東京よりも大きな影響を受けるとみられる。
高句麗王族の日本亡命に脚光
4月23日には、埼玉県日高市にある高麗神社が韓国の新聞とテレビを賑わせた。高麗郡創設1300年を記念する石碑が立てられたというニュースだった。同日付朝鮮日報によると、石碑は日韓交流の歴史を勉強する「高麗若光の会」が募金を集めて建てられたもの。除幕式には高円宮久子妃、ユ・フンス駐日韓国大使、馳浩文部科学相らが参加した。
高麗郡という地名は1955年になくなってしまったが、高麗神社のホームページは、同神社と高句麗には深い縁があることを説明している。「高麗神社の主祭神は、かつて朝鮮半島北部に栄えた高句麗から渡来した高麗王若光です」。
高麗若光(韓国名は高若光)は高句麗最後の王の息子である。高句麗は668年、新羅と唐の連合軍に負けて滅亡した。高麗若光は滅亡した高句麗から逃げ(神奈川県)大磯に上陸。日本の朝廷が716年、現在の日高市に高麗郡を作り、高句麗の流民1799人を集め、高麗若光を首長にしたという。
韓国では高句麗の流民が日本に定着したことや、高句麗王の子孫が日本にいることを知らない人の方が多い。このため、報道に接した人々の間で高麗神社が話題になった。1300年前から日韓交流が続いいていることに驚いたという声が多かった。
日韓関係が良好だったのは実は進歩派政権の時
この他に韓国メディアが連日報道しているのは、韓国の総選挙結果を日本のメディアがどうみているのかと、日本側から見た今後の日韓関係についてだ。日本メディアがどう報じているか、記事を詳細に翻訳して伝えている。
朝鮮日報や聯合ニュース、公営放送KBSニュースは、以下のように報じた。
「4月14日、日本の主な新聞は1面に与党セヌリ党惨敗の記事を載せ、選挙結果に大きな関心を見せた」
「日本がもっとも気にしているのは日本軍慰安婦合意」
「総選挙で野党が勝利したため韓国は反日になると、日本のメディアは分析している」
韓国メディアは、日本のメディアがこう理解していると報道している――韓国の野党は、共に民主党も国民の党も「日本軍慰安婦問題を巡る朴槿恵大統領の政策には問題がある」との立場を取っている。
4月16日付のアジア経済新聞の記事はその一例だ。「韓国外交部のチョウ・ジュンヒョク報道官は16日、『日本軍慰安婦問題合意に対する政府の基本的立場は変わらない』と発表したが、日本のメディアは悲観的だ。(日本のメディアは)野党の勝利によって朴槿恵大統領の力が衰え、日本軍慰安婦問題をめぐる合意の履行に影響を与えると予測している。朝日新聞は『朴槿恵大統領の求心力が弱くなると慰安婦問題合意を完全に履行することは難しい』という韓国政府高官の発言を報じた。日本のメディアの懸念は懸念で終わりそうにない。2015年12月28日に妥結した日本軍慰安婦問題合意は一向に進まないままだ。与小野大になる次の国会では再交渉の話が出る可能性もある」。
日本メディアによる一連の報道を見て矛盾を感じるのは、「朴槿恵大統領は反日で、そのため日韓関係が悪くなった」と書き続けてきた日本のメディアが、野党が勝利したことで韓国が反日になると分析した点である。朴大統領は結局、反日ではなかったという意味なのだろうか。
日韓関係を振り返ると、サッカー・ワールドカップ共同開催や韓流ブームなどで日韓関係がよくなったのは、金大中氏と廬武鉉氏が大統領だった時代である。いずれも進歩派だった。
良好な日韓関係を望む人が進歩派を支持している可能性
今回の総選挙では、不在者投票の動向が話題になった。韓国では2009年に選挙法が改定され、海外に住む留学生、駐在員、国外永住者なども2012年から投票できるようになった。
選挙管理委員会によると、約6万3000人が不在者投票を実施。59%が共に民主党、23.8%がセヌリ党、9.1%が国民の党、2.4%が正義党、5.7%が無所属の候補を選んだ。政党投票(日本の比例代表に相当する)でもセヌリ党は26.8%しか得票できなかった。海外に住む韓国人の方が、韓国内に住む人々より野党(進歩派)を支持しているという結果になった。
2012年12月に行われた大統領選挙でも、不在者投票のうち56.7%が進歩派のムン・ジェイン候補(当時の民主統合党、現在の共に民主党)を支持した。複数の韓国メディアは、朴槿恵大統領の外交政策に不満を持つ人が、進歩派への支持を強めたのではないかと分析した。不在者投票に参加する人は選挙ごとに増えているため、2017年12月の大統領選挙でも大きな影響を与えるとみられる。
一概には言えないかもしれないが、この数字から推測すると、日本に住んでいる韓国人も共に民主党や国民の党、正義党を支持したと考えられる。日本に住む韓国人は誰も日韓関係が悪化するのを望まないはずだ。進歩派勢力が拡張することで日韓関係が悪くなるという日本メディアの予測は外れる可能性が高いし、はずれてほしい。
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