ワシントンポストは「朴前大統領の弾劾につがった」

 同じく3月22日付のワシントンポストは、セウォル号大惨事の救出作業を誤ったことが朴前大統領に対する強烈な批判を巻き起こした。結果として、国民の不満が、朴前大統領の弾劾につながったと報じた。

 ちなみに憲法裁判所は、朴前大統領がセウォル号大惨事の際に国民の生命権保護の義務を疎かにしたことは罷免の理由にはならないと判断した。「国民の命が脅かされる災害状況が発生したとしても、大統領が救助活動に直接参加すべきといった具体的な特定の行為を実行する義務まで発生するわけではない」という理由からだ。

 ただし憲法裁判所は、朴前大統領の後任となる次期大統領へのメッセージとして、災害時に大統領が果たすべき役割について判決の補充意見として次のように記載した。「国政の最高責任者(大統領)が災害の解決を最優先課題にしていることを国内外に見せることは、それだけで救助作業者に強い動機を与え、被害者やその家族は救助への希望が持てる。結果がよくなくても、(国民は)政府が危機状況を解決するために最善の努力を尽くしたことを知り、慰められ、その災害を乗り越えようとする力を持てる」

 「国民が、国政最高責任者の指導力を最も必要とする瞬間は日常ではなく、戦争や大規模な災害など国家危機が発生し、事態が予測できない方向へ急激に流れ、これを統制・管理すべき国家のシステムが正常に作動しないときである。2014年4月16日がまさにその日であった。国家の危機的状況に直面した大統領が職務を不誠実に遂行しても構わないという間違った認識を残さないために、指摘しておく」

地下鉄事故でも、車掌の言うことは信用できない

 韓国メディアはセウォル号大惨事の当日、朴前大統領がどこで何をしていたのかについて報道合戦を繰り広げた。旅客船が沈没する寸前に船内にはまだ300人以上が残っていた。この緊迫した状況で、海洋警察は大統領の指示がないと救助活動を始められなかったのか? その点が疑問である。

 2014年4月16日、事故発生から朴前大統領が対策本部に姿を現すまでの7時間、海洋警察をはじめ、救助活動を指揮する責任がある人達はみんな何をしていたのか。セウォル号が傾き始めてから沈没するまでかなり時間があったのに、犠牲者が多いのはなぜか。そもそも事故はなぜ起きたのか。

 真相を知らないと再発防止策も講じられない。だから被害者家族らは真相究明を粘り強く要求してきた。3月26日の土曜日には、ろうそくを持った市民がソウル市光化門広場に再び集まった。市民らはセウォル号の真相究明、朴氏に対する徹底した捜査を求めて行進した。

 セウォル号大惨事が起きて以降、韓国は「災害時に自分の身は自分で守るしかない」「誰も信用できない」という雰囲気が蔓延している。2016年1月と3月に、電気トラブルで地下鉄が突然止まる事故があった。「車内で待機してください」と車掌がアナウンスしたものの、パニックを起こした乗客が一斉に線路に出て隣の駅まで歩いて脱出したことがあった。向かい側の線路に反対方向に向かう列車が来る可能性もある危険な状況にもかかわらず、セウォル号大惨事を思いだし車掌の指示を信用しなかった。不信感が募り、政府機関が行うことすべて「信頼できない、何か隠している」と疑ってかかる人が増えた。

 朴氏が2013年に大統領に就任して以降続いた保守派・進歩派間の世論分裂が、セウォル号大惨事の後さらに加速した。修学旅行に行った高校生らが犠牲になったことに胸を痛める国民がいる一方で、「被害者遺族がセウォル号の真相究明を求めるのは少しでも保険金を多くもらうため。交通事故で死んだのと何が違う」などと被害者家族らを非難するネット上の書き込みが後を絶たなかった。

 真相究明を求めて断食を続ける遺族らの前で、保守を名乗る人達が大食い大会を開いたこともあった。大統領弾劾裁判の過程で、セウォル号被害者家族を擁護し真相究明に賛同した小説家や芸術家を、文化体育観光部の関係者らが「ブラックリスト」に載せ、政府が支給する各種の支援金を受け取れないようにしたことも明るみになった。

 そして今、「セウォル号の引き揚げが朴氏が罷免された後に実現したのは、同氏がセウォル号の真相究明を望まなかったから」という根拠のないデマがネットで広がっている。

 セウォル号引き揚げをきっかけに、デマや偽ニュースに惑わされ進歩派と保守派がお互いをさらに攻撃するようになった。この分裂を早くなくしてほしいものだ。加えて、政府はまともな再発防止策を作り、国民からの信頼を取り戻してほしい。

 「国民統合」をキャッチフレーズに選挙運動を始めた次期大統領選挙候補らに期待したいところだ。