朴氏の支持者が集まり、弾劾決定に抗議。座り込みをする人も(写真:AP/アフロ)
韓国の憲法裁判所は3月10日、裁判官8人全員が賛成して弾劾訴追案を「認容」する判決を下した。判決主文には「被請求人である大統領・朴槿恵を罷免する」と書かれた(請求人は国会と国会訴追委員法制司法委員長)
弾劾の判決は言い渡されると同時に効力が発生するので、3月10日11時20分をもって朴槿恵氏は前大統領になった。朴氏は、自宅の修理が終わっておらず、警護体制もまだ整っていないとの理由で、判決から2日経った3月12日午後7時過ぎに大統領官邸を出た。記者会見をすることも、公式コメントを残すこともなかった。朴氏は韓国で初めて罷免される大統領になってしまったが、自宅前に集まった支持者らには嬉しそうな笑顔を見せた。
大統領官邸報道官だった自由韓国党(前セヌリ党) のミン・キョンウク議員が取材陣に明かしたところによると、朴氏は自宅前で出迎えた「親朴」と呼ばれる議員らに「時間はかかるが、真実は必ず明かされると信じている」とのメッセージを残したという。主な韓国メディアは朴氏のこの発言を「(朴氏が)憲法裁判所の判決に事実上不服を申し立てた。判決に不満を示した」と大々的に取り上げた。
野党は一斉に批判
この発言が報道された後、3月12日夜から、野党側は朴氏を一斉に批判した。共に民主党のユン・クァンソン報道官は、「朴氏は最後まで自身の国政壟断(朴氏が、友人であるチェ・スンシル氏の国政介入と不正蓄財を助けたとされること)は認めたくないようだ。憲法裁判所による弾劾認容をいまだに不服としているようで遺憾である」とコメントした。
国民の党のチャン・ジンヨン報道官は、「朴氏が憲法裁判所の判決を承服し、国民の統合に寄与することに期待した。しかし、やはりむなしい期待だった。最後の最後まで『真実は必ず明かされる』云々と語り、憲法裁判所の決定を不服としたのは遺憾である。自分の過ちをわかっていないのは、朴氏個人にとって不幸であるだけでなく国家にとって不幸だ」と論評した。
保守派の正しい政党(セヌリ党から脱党した議員らが所属)のチョウ・ヨンヒ報道官は、「(朴氏が)憲法裁判所の判決を尊重し、(弾劾を求める国民とそうでない国民を)統合するようメッセージを残すと期待した。だが、分裂と葛藤が続く余地を残したのは遺憾である。それも、自らの口からではなく、代理人の口からだった。朴氏は憲法裁判所の決定を厳粛に受け止め、その結果を尊重すべきである」と論評した。
自由韓国党(前セヌリ党)は、特別な論評を残さなかった。イン・ミョンジン非常対策委員長が、判決が下った直後に記者会見を開き、次のように述べるにとどめた。「憲法裁判所が弾劾を認容する決定を下したことに対して、自由韓国党は責任を痛感している。与党としての責務を果たすことも、今まで国民が築いた韓国の国格(国の品格)を守ることもできなかった。国民の皆様に心から謝罪する」
弾劾裁判の請求人である国会弾劾訴追委員長クォン・ソンドン議員(正しい政党所属)は、「法治主義と国民主権を確認できた判決」と評価した。大韓民国憲法第1条2項には、「大韓民国の主権は国民にあり、全ての権力は国民から生じる」と書いてある。
欧米メディアは「民主主義の勝利」と評価
韓国の大統領が罷免されたニュースは、日本はもちろん、欧米でも大きな話題になった。中でも、CNNが速報の見出しを「PARK OUT」としたのが印象的だった。
韓国の現状を解説した記事の中ではドイツのDeutsche WelleとBBCワールドのインタビューが印象に残った。
3月10日付Deutsche Welleは、「朴氏の弾劾は民主主義の勝利」という見出しで、朴正煕による軍事独裁政権と貧困を経験した70代の高齢者が最後まで朴氏を支持している理由を分析した。国民の7割が弾劾に賛成する中、奇異な存在だからだ。
70代の高齢者らは朴正煕時代、急速な経済成長の土台を作るため献身した。にもかかわらず、高齢者らは自分たちが見捨てられたと感じ不満を持っている。韓国はOECD加盟国の中でもっとも老人貧困率が高い。過去に対するノスタルジーもある。加えて、軍事独裁の時に長きにわたって洗脳されたせいで、「韓国社会が抱える悪はすべて北朝鮮と左翼がでっちあげたことだ」と疑い、朴正煕の娘である朴槿恵氏を支持すると解説した。
3月10日付BBCワールドニュースは朴氏の罷免に関して、釜山大学政治外交学科のRobert E Kelly教授をネットテレビ電話でつなぎ、生中継でインタビューした。Kelly教授は、「韓国人のやり方に感銘した。暴力をふるったり大きな混乱を起こしたりすることなく弾劾手続きを最後まで成し遂げた民主主義国家はほとんどない。憲法の手続きを守り、(ろうそく集会で)人が亡くなることもなく、クーデターもなかった。アラブの春とは違う。民主主義の成果であり、民主主義の勝利であると言いたい。どの民主主義国家でもスキャンダルは起きる。問題はそのスキャンダルに民主主義がどう反応するかである」と述べた。
この他にも、欧米メディアに登場した韓国研究者は今回の弾劾を、平和的抗議による民主主義の勝利と評価した。
サムスンを巡る裁判が始まる
実は、弾劾反対集会で死者が出ている。3月10日、憲法裁判所の前でパクサモ(朴氏の支持者)が集まり、「弾劾は無効」「判決を取り消せ」と抗議する集会を開いた。支持者の一人である60代の男性が、憲法裁判所を取り囲んでいた警察のバスに無断で乗り込み運転し、他の警察バスにわざと衝突させた。その勢いで、バスの上に載っていた大型スピーカーが落下。その下敷きになって、同じく参加していた70代男性が死亡するなど、3人もの死者が出た。とても残念である。
判決が出た翌日3月11日土曜日も、ろうそくを手にした弾劾賛成派が光化門広場に集まった。望んだ通りの結果になったことを祝うムードの中、「これからが本番。今まで行われていた間違った慣行を変えていこう」「積弊を清算しよう」とシュプレヒコールを上げる場面もあった。
3月13日からはサムスンを巡る裁判が始まった。チェ氏が朴氏と共謀し、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長から受け取った(または受け取る予定だった)経済利益は(イ副会長が見返りを求めて自ら渡した)賄賂なのか、それともチェ氏が強要したお金なのかを調べる。朴氏は罷免され大統領特権を失ったため、検察の捜査から逃れられないとみられる。既に一般人なので、強制捜査の対象にすることもできる。
特別検事による捜査を引き継いだ検察特別捜査本部は、朴氏を職権濫用、権利行使妨害、医療法違反など13もの嫌疑で捜査するとしている。
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