韓国政府と国民に対するテロにも警戒が必要

 国家情報院は事件後の2月15日、国会情報委員会で次のように説明した。「金正男殺害は事件の3~4時間後に認知した。殺害は金正恩が発した暗殺命令に基づくもので、金正恩が命令を取り消さない限り、工作員は必ず履行しないといけない。北韓の工作員は最初、北韓の中で金正男の暗殺を試みたため、金正男は2012年シンガポールへ逃避。『命令を取り消してほしい。自分の逃げ道は自殺しかないことをよくわかっている』という内容の手紙を金正恩に送ったこともある。しかしその後も暗殺命令は取り消されていなかったことになる」。

 「中国との関係が悪化すると知りながら金正恩が金正男を殺害したのは、金正恩が偏執狂的な性格だからだとみられる」
 「金正男が韓国に亡命を試みたことはなかった。韓国に2016年に亡命したテ・ヨンホ前・駐英北韓大使館公使の警護を強化している」

 ファン・ギョアン大統領権限代行は2月20日、国家安保会議・常任委員会を開き、以下のように述べた。「(金正男殺害)は容赦できない反人倫的犯罪行為でありテロ行為である。政権を維持するためには手段と方法を選ばない北韓政権の無謀さと残虐性を見せつけた。北韓のテロ手法がより大胆になっているだけに、韓国政府と国民に対して北韓がテロを実行する可能性にも格別に警戒しないといけない」。

 「3月に始まる韓美軍事訓練を通じて北韓の挑発を強力に抑制すると同時に、国民が国家安保に対して信頼と自信を持てるようにする。政界を含め安保に関して国民が団結した声を出す必要がある」

公営KBSの報道は親・朴大統領に偏向?

 韓国では、朴槿恵大統領をめぐるスキャンダルを捜査する特別検事の活動期限が2月28日に終了し、同大統領の弾劾の是非を決める判決がもうすぐ下される。さらに、大統領選挙の前倒しをめぐる保守派と進歩派の闘争がピークに達している。一部進歩派の間では大統領選挙前の「北風」がまた始まったのではないかと懸念する声がある。

 北風とは、1997年に大統領選挙が実施された時、与党ハンナラ党が擁する候補への支持を高めるため、大統領官邸で働く行政官3人が北京で北朝鮮側に接触し、「休戦線付近で武力騒動を起こしてほしい」と依頼した事件をいう。国民を不安にすることで、「北朝鮮に人道的支援をすべき」と訴える野党候補(当時の金大中候補)ではなく、保守候補に票が集まるよう仕向ける狙いだった。大法院(日本の最高裁判所に当たる)の判決で、この行政官3人は国家保安法違反で有罪が確定した。

 これ以来、韓国のネットには、大統領選挙を前にして北朝鮮がミサイルを発射したり、おかしな行動を取ったりすると、「北風ではないか」と疑う書き込みが増える傾向がある。今回も、政府の発表もメディアの報道も疑わしく見えて、何を信じたらいいのかわからない状況に陥っている。

 全国言論労働組合は22日に報告書を発表し、公営放送KBSの報道が偏向していると主張した。KBSが15~22日に報道したニュースをモニタリングしたところ、金正男氏の殺害に関する報道ばかりで、朴大統領の弾劾や特別検事の捜査動向、次期大統領選挙に関する報道は縮小されていたという。

 全国言論労働組合は、さらに次のように指摘した。
 「KBSは特に2月16日以降、民放のソウル放送や文化放送に比べ3倍近く長い時間を金正男氏殺害関連ニュースに割き、朴大統領弾劾ニュースを流す時間を短くした」
 「ニュースに対する価値判断は放送局によって違うが、それにしてもKBSは偏っている。事実関係が不明な推測報道で国民の不安を刺激している。このままでは国民を混乱に陥れる可能性がある」
 「KBSは『北風』報道を行い、大統領弾劾に向かう国民の視線を他へ向けようとしているのではないか。KBSは正確な事実を伝えるという公営放送の役割を全うすべき」