特別検事の捜査に連行されるチェ・スンシル氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
2017年、韓国は「人口オーナス」元年を迎えた。人口オーナスとは、15~64歳までの生産年齢人口が減少する一方、扶養すべき高年齢人口が増加して経済的負担が大きくなることをいう。韓国は2017年からついに生産人口が減少する。
複数の韓国メディアが、人口オーナスの先輩と言える日本の事例を新年特集として紹介。シャッター街と化した地方都市や、高齢化にビジネスチャンスを見出したコンビニの食材配達サービスなどを取り上げた。韓国はどうすればいいのか日本から学ぼうという動きが出ている。
韓国では、生産人口が減少すれば消費が落ち込み、長期不況に陥るとみられている。韓国の企画財政部(韓国の「部」は日本の「省」に当たる)は、2017年韓国の実質経済成長率を2.6%と展望した。同部が経済成長率を2%台と展望したのは、1999年に外貨危機が起きて以来のこと。従来は経済成長を楽観視し3%台の数字を出す傾向があったが、2017年度については「不確実性」を理由に低い数値を打ち出した。ちなみにOECDは2.6%、韓国の民間研究所は2.3%前後と予想している。
米国の保護主義と利上げを不安視
企画財政部は、米国の動きが波乱要因になるとみている。トランプ政権が保護貿易主義を強めて韓米FTAに影響を与え、関税を厳しくする事態などが発生すれば、輸出に大きく依存する韓国経済は大きな打撃を受けるしかない、というわけだ。
企画財政部は米国の利上げが及ぼす影響も懸念している。米国が金利を上げれば韓国銀行(中央銀行)も追随する。金利が上がれば韓国の自営業者は大きな打撃を受ける。韓国の自営業者は平均して、年間所得の3.5倍に達する借金を抱えている(韓国銀行調べ、2016年9月時点)。OECDの統計によると韓国の自営業者は全勤労者の27.4%を占める。この値は世界4位(2013年調べ)で、OECD平均の15.8%よりかなり高い。
不確実性に備える措置として通貨スワップがある。地上波放送KBSニュースは1月2日、韓日通貨スワップ協定を再締結する交渉が中断することなく続いていると報道した。ユ・イルホ経済副総理は、「通貨スワップとは不確実性を減らすために締結するもの。韓国政府として色々な国と締結したい」と発言した。
経営の壁は「政治・社会の不安」との回答が最多
しかし何よりも大きな不確実性は国内の政治だろう。朴槿恵大統領の友人チェ・スンシル氏の国政介入と朴大統領の収賄疑惑について、特別検事による捜査が続いている。憲法裁判所が弾劾を認めれば、2017年に大統領選挙が実施される。大統領が変われば、すべての政策が切り替わる。
韓国経営者総会が259社の代表取締役を対象にアンケート調査を実施したところ、経営の壁になるのは「政治・社会の不安」との回答が24.6%と最も多かった。これに以下の回答が続いた――「民間の消費不振」21.1%、「企業の投資心理萎縮」14.6%、「世界の保護貿易強化」12.9%、「中国の経済成長鈍化」12.3%、「米国の金利引き上げ」4.7%、「過度な規制」3.5%、「労使関係の不安」2.3%。経済成長率は、企画財政部より厳しく2.3%と展望している。
また、回答者の49.5%が「(2017年は)緊縮経営をする」とし、「人員リストラ(人員減縮、賃金調整)」32.7%、「原価節減」22.1%、「事業部門リストラ」17.3%を実施する可能性を指摘した。
大企業も特別検事の捜査対象に
韓国の大手企業も、朴大統領スキャンダルと無縁ではない。韓国版経団連の全国経済人連合会が、政治と経済の癒着窓口になっていたという疑惑をめぐって、特別検事が進める捜査の対象になっている。
全国経済人連合会は、サムスングループの創設者であるイ・ビョンチョル前会長をはじめとする企業家13人が1961年に集まり、企業を代弁する団体として発足した。2016年時点の会員数は約600社。
特別検事は、同連合会のイ・スンチョル副会長をチェ・スンシル氏を巡る裁判の証人として立たせることを決めた。チェ・スンシル氏が関与するミル財団およびKスポーツ財団と、財閥大手企業をつなぐ窓口役を果たしたとの疑いだ。
全国経済人連合会の会員である大手企業は、チェ氏に強要されて仕方なく資金を提供した被害者とみられていたが、実は、朴大統領への橋渡しなど便宜を図ってもらうべく、全国経済人連合会を通じてチェ氏に資金を提供していた疑惑がある。
こうした中、昨年の12月27日、LGグループが全国経済人連合会から脱会すると発表した。続いて、最大手通信キャリアのKTも脱会。SKグループもチェ・テウォン会長が脱会を宣言した。サムスングループも脱会する見込みである。現代自動車は、脱会はしないものの会費は払わないと発表した。銀行や会計事務所の脱会も続いている。全国経済人連合会から脱会することで、「クリーンな企業」とのイメージを挽回する狙いなのだろうか。
全国経済人連合会の会長を務めるホ・チャンスGSグループ会長は2016年末、会員企業に向けて謝罪の手紙を送付した。「目まぐるしく変わる時代のニーズと国民の期待を満たすことができず、会員の皆様にご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます」。
同連合会の年間会費収入は約492億ウォンで、そのうち7割を4大財閥――サムスン、LG、SK、現代自動車――が占める。4大財閥からの会費がなくなれば、団体の存続が難しくなる。信頼を失った以上、韓国経済のご意見番といった役割も果たすことはできない。
50年以上続いた全国経済人連合会の衰退もまた、韓国の経済に影響を与えるだろう。財閥大手企業の利益を守るべく活動する団体の力が弱まり、財閥中心の経済構造が変われば、ベンチャーやスタートアップがよりビジネスしやすくなると考えられる。野党は「権力者を代弁する団体、政権の集金窓口に堕した全国経済人連合会を解体せよ」と主張している。
サムスンのために国民年金を犠牲にした疑い
特別検事は、サムスングループがチェ氏経由で朴大統領に接触し、サムスン電子の大手株主である国民年金がサムスングループ会社の合併に賛成するよう要請したとも疑っている。同グループは、イ・ジェヨン サムスン電子副会長が経営権を承継するために、グループ会社の合併を必要としていた。全国経済人連合会からの募金とは別に、サムスングループとしてさらなる資金をチェ氏に提供したとみられている。国民年金は合併に賛成することで、5865億ウォン(財閥ドットコムの試算による)の損害を被った。
朴大統領には、国民が国民年金に貯めたお金(国民年金)をサムスンのために犠牲にしたという疑いが持たれている。同大統領は2017年1月1日午後、記者団を集めた新年会で、「サムスンを支援するよう国民年金に指示したことはない。特別検事の言いがかりにすぎない」と否定した。
特別検事の捜査に続き、朴大統領をめぐる弾劾裁判と、チェ氏の国政関与と朴大統領の収賄に関する裁判が1月5日から本格的に始まる。
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