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自らも好き嫌いで選ばれたはず

 しかし「今、最も面白い漫才師」を、プロの芸人が選ぶなら、将来性もへったくれもない。“今”がすべてになる。今面白いかどうか。ならば、“笑い”は、当事者の感性に頼る他ないのだ。

 「好き嫌いで選びやがって」という不満もあろうが、そもそも、漫才当事者が選ぶ漫才なのだから、“好き”を選んで当然で、そこに人間性やら将来性やらは関係ない。

 そういう土俵で選ばれた元M-1王者が、審査員を「感情的に選んだ」と批判するのは、自らの地位を否定するようなものだ。あんたたちもまた、“好き嫌い”で選ばれたんだよ、と。そのことの自覚のなさ。もっと言うと、あなたたちをかつて選んで王者にしてくれた審査員たちの悪口を言っちゃいけない、という“人間性”的なものを度外視し、“面白さ”のみに特化したから、こういう、選んでもらって出世した若手が、その「ご恩のある審査員」を否定するというお行儀の悪さを生むのだ。面白さだけで選ぶ落とし穴が今回、露呈した、と私は見る。

 さて、番組批評はこれくらいにして、この騒動からは学ぶべき社会の一面がある。

 女性上司が部下に対し、感情的になった時、「更年期障害」という悪口が出る。これはM-1のみならず、一般社会でも起こり得る。機嫌不機嫌を隠さない男性も普通にいる。だが、部下が「彼は感情的な人事をする。男性更年期か」という声はあまり聞いたことがない。

 女性も男性も、感情的だ。だが、女性上司に対して若い男性からそういう言葉が出る、ということは肝に銘じておいたほうがいい。

 男性審査員が「僕、彼らのような漫才が好きで」と口にしたところで、「好き嫌いで選んだ」という批判は出なかった。見えてくるのは、若手男性が反発したのは“感情的”なことではなく、“女性”だったこと。