その男性的には会話はちゃんと成り立っているのだろう。

 「タクシーがない」
 「運転すれば?」
 「無理」
 「ホテルで乗れば?」

 どういう回路で「体調が悪いから助けてほしい」がすっぽり抜けて、「タクシー論議」になるのか。まったくもって理解しがたいが、しかし、そういう人は現実にいる。

元気ではございません

 その後、何とか諸々の手配を終え、テレビ局にたどり着き、本番を終え、養生しようと自宅に戻ったところ、その男性からの留守電に気づいた。

 朦朧としながら再生する。

 「げんき~?」

 明るく元気な声で私の調子をうかがう留守電だった。

 私は体中に怒りのうねりが走るのを感じた。そうやって、私にエネルギーをもたらそうという手の込んだ留守電では100%ない。その男性は優しい人だ。ただ、鈍いのだ。

 「げんき~?」は、本当に元気な人か、あるいは元気かどうかわからない人にする挨拶だ。

 同窓会に来たメンバーに「げんき~?」はある。

 苦しむ患者に「げんき~?」とは言わないだろう。

 いや、その男性なら言うかもしれない。それも本人的には、好意から出た言葉として。

 他にも、体調を崩している人に言ってはならない言葉はある。

 かつて私が言われて腹が立った言葉を並べてみる。

 「前向きに生きようよ」
 …お前、病気になってみろ。

 「病気と共存して生きようよ」
 …お前、健康だから言えるんだよ。

 「気分転換にいろいろやったほうがいい」
 …だから、しんどい、と、言っているやろ。

 どの言葉も、言っている本人に悪意はない。良かれと思って言っている。しかし残念ながら、鈍い。

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