だが、もうプロデューサーの耳にまで入ってしまった「飲み物ミス」は、喫茶部へ連絡が行ってしまった。

 数分後、汗だくの男性がまるでとんでもない失敗をしたかのようなテンションの詫び方をして、アイスコーヒーを持ってきた。

 その周りには大勢のスタッフがいて、私に詫びている。

 ・・・これを最も避けたかった。

 私はホットを引き上げようとする喫茶部の男性に言った。

 「せっかくのコーヒーなので、これも頂きます。そして、せっかくアイスもあるので、これも頂きます。本番前にはアイスを。本番後にはホットを。両方頂きますので、有難う」

 「でも、ホットはすぐに冷めてしまいます」とプロデューサー。
 「いいんです。冷めたら飲みやすい」
 「まずいです」
 とホットコーヒーを引き上げようとする。

 「じゃあ、もったいないから、このホットがまた暖かいうちに、あなたが飲んでくれますか? そしたら、せっかく注文したものが無駄に捨てられずに済みますから」
「はい。じゃあ私が頂きます」

 そういって、スタッフがホットコーヒーを引き上げていった。

 ・・・が、私はその後目撃したのだ。

 そのホットは、誰も飲むこともなくそのまんま、喫茶部へのお持ち帰り食べ残し食器エリアに置かれていた。

 職場には、「コーヒー事件」として、スタッフの印象に残る出来事となった。

忖度の塊と束

 それは考えすぎだという見方もあろう。だが、こういう一つひとつの印象が重なって、その人間の像というのが出来上がるのもまた職場だ。

 皆が私というベテランによかれと、私を大事にしてくれようとして、騒ぎになった。

 コーヒー一杯のことで、何人が私に謝りに来てくれただろう。楽屋番の女性が気落ちしていなければいいが・・・。

 権力とは、このようにして忖度の塊と束でどれほどそれを拒絶しようが出来上がる。

 それをよく自覚しておらねば、あっという間に権力に酔いしれる、権力好きな化け物が誕生する。そして、それが好きなタレントも少なくない。