私は、電卓に50円と出た段階で、とっくに心が折れていた。
 数百万と50円。あり得ない。

 このパニックを経験して分かったこと。

 まず、受付を担当する係の人は、適確に、関係者が迷わない芳名カードと受付窓口を作るべし。

 香典袋には、“読める”名前を楷書で記入すべし。香典袋に達筆はいらないどころか、混乱と迷惑をもたらす。芳名カードと香典袋が一致しない。3人集まっても読めない名前の多いこと。

 そして、表封筒にも内袋にも、金額と住所と名前を書いてほしい。香典を開けたが最後、不思議なことだが実際に経験してみると、表封筒と内袋がバラバラになって、合計金額が無茶苦茶になる。ここにある現金の束と、電卓上の合計が永遠に合わないのだ。

 私はお葬式の裏側をお手伝いするという初体験をしたわけだが、たくさんのことが勉強になった。薄い墨で書くのがマナーとされるが、経験して分かった。

 濃い字で、はっきりと、明確に、楷書で書いてくれ。美しい薄い筆文字などいらない。ボールペンでいい。何が礼儀だ。何がマナーだ。薄くて読めない、達筆すぎて読めない香典の多いこと。現場は想像以上の戦場のような混乱で、それが夜明けまで続く悪夢のような初経理経験だった。

それ、早く言ってよ……

 翌日の葬儀、私は、まるで自分も遺族であるかのように目にクマを作り、げっそりとして参列した。

 ちょうど葬儀会社を経営する知人社長がいたので、「実は……」と、昨夜の混乱を愚痴った。社長は笑いながら間髪を容れず、軽く言った。

 「ああ、香典の合計金額は合わないのが当たり前なんです。合わないもんなんです。現金入れたつもりで金額書いて、入れるのを忘れる人はフツーにいますからね」

 この世の中にはまだまだ知らないことがあった。香典は、合計金額は合わない。それを知っていたら、我々は徹夜もしなかったし、喧嘩もしなかったし、飢えもしなかった。

 忘れられない思い出深い葬儀となった。
 が、誰かそれ、早く言っておいてくれよ……とも思った。

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