なんせ、他人様の現金ウン百万円を手にしている。仕事でもこれほど集中しないぞ、というくらい集中して金額を打ち続けた。
 そして、「合計!!○○万〇〇千と50円!」
 ……「50円!?」

 50円なんて香典はあり得ない。私がどこかでゼロふたつを打ち損じたに違いない。
 そこに費やした皆の時間と労力と、50円、に、失神しそうに自己嫌悪になった。

 数百枚の香典を読み上げ続けた女性は、気丈に「もう一度、一からやりなおしましょう」と励ました。
 私は泣きそうになって、「ごめん……。腹減った」。
 「ダメです。こんなに現金を広げているところに、お料理なんか置けません。飲み物を現金にこぼしたらどうするんですか!」と叱られた。

 電卓を打ちながら、同時に視線は表示された数字も目視するようにしていると、眼も脳みそも死にそうに疲れた。だって、昼から何も食っていないし、そのまま、苦手な数字を扱い続けてもう、朝じゃないか!

そして葬儀の朝が来た

 だが、だんだんと現金の合計と、香典袋に書かれた合計の誤差が数万円くらいに近づいてきた。離ればなれになった内袋と外袋の香典袋が合体できれば、数万円の誤差は埋まるはず、と一縷の光が見えた。

 「この人は、芸能関係だから、芸能の紙袋から外袋探して!」と言われたが、そもそも、芳名カードにも、受付にも、「芸能関係者」というのがない。

 「あ! “一般”に芸能人が混ざってしまってるじゃない! なんで芸能人のくせに“一般”に香典出すのよ! あ! 遙さんのもだ!」と叫ばれる。
 「だって、一般と会社しかなかったんだもん!」
 「うそ! じゃあ、そもそも、一覧表の分類自体、意味ないじゃん!」
 「だから、香典袋だけが命綱だっちゅーの! よくそれを捨てろと言ったよね!」
 空腹と疲労から喧嘩腰になってきた。
 「だいたい、これを指示した人は?」
 「夫が迎えにきたからって、通夜の途中に帰ったわよ」
 「指示して帰るんだ……」と残された独身女性3人。

 そして、あきらめた我々。もう朝だ。葬儀がある。寝なきゃ……。

 「明日の香典係り、誰がする?」
 「私、もう嫌だ。お葬式に集中したい!」