小池氏のどの戦略を頂戴するかは個々の自由として、まずは私が注目した戦略を整理したい。
隙は見せない
戦略1)作り笑顔。
彼女は決して感情を露わにしない。鉄仮面のような作り笑顔で権力者側の男性たちと相対している。かつての、気分を害したら怒鳴り散らしたり、ダダをこねるように平身低頭したり、の知事とは異なり、いっさいの感情を表に出さない。笑顔しか出さない。決して腹をさぐられない、という覚悟で臨んでいると私は見る。
戦略2)好感度を意識する。
その象徴としてファッションがある。年配の働く女性はいったいどんな装いをしているのか、というのを実は私達はあまり見る機会なく過ごしてきた。大人のファッションアレンジは女性たちには現実問題として大いに参考になる。派手な色遣いを見て揶揄するのは、紺の背広の群れに紛れて戦いに背を向ける人たちだろうか。
戦略3)距離感を意識する。
この技は、IOCのバッハ会長との公開対談の時に披露した。彼女はバッハ会長が"自分の"立ち位置に近づくまで、一歩も歩み寄ることなく笑顔で迎え、待った。そして握手した。ここは重要だ。自分から一歩でも相手に近づいた途端、そこにある権威は目減りする。ようこそようこそ、と、はしゃいだと取られかねない。一歩も歩みよらず、相手がこちらに来るまで待ってから握手する。自分が相応の権威を担う者であることを相手とメディアに見せつけた一瞬だ。交渉は握手の立ち位置からもう始まっている。
戦略4)聴衆への配慮。
通訳をはさんでの小池氏の日本語の切り方は、まるで、通訳と餅つきの合いの手のように呼吸が合い、聴く側にストレスを感じさせなかった。そう思ったのは私だけだろうか。日本語の切り方が絶妙だった。通訳を入れての対談への慣れの差などもあろうが、聴衆への配慮があってこそ、だ。
バッハ会長はどうだったか。
…話が長い。彼は話を切らない。延々と喋り続け、途中からはもう、元の質問が何だったか聞く側も忘れてしまう。ただただ「ながっ」と思いながら、終わらない話の終わりを待つ。そして、ようやく通訳が長い日本語に訳し始める…。
丁寧に誤解のないように言葉を重ねることは、悪いことではない。しかし、自分のありようが相手にどういう感覚を与えるか、自分の話が聞く者に無用なストレスをかけていないか、嫌な思いをさせないかといった、相手側に立つトレーニングをしてこなかった、あるいは、する必要がなかった側の人だと私は思った。同時に、小池氏がいかにそうしたことにまで気を配っているかが見えた気がした。