当日。いまだ成功のイメージは湧かないが、気づけば登壇の時間に。

 ・・・ん?

 客席には不思議な空気の動きがあった。まず全員が私を見る。直球で見つめる。

 ・・・あれ?

 目も合わせてももらえないんじゃないかとの覚悟で登壇したというのに。期待に満ちた目で私を見てくれている表情が並んでいた。話を始めると、空気は揺れに揺れた。

 講演前、「いったいなぜ私を呼んだのですか」という問いに主催者は答えた。

 パソコンばかりを相手にしている社員たちに、もっと社交的になってほしい。そんな願いから私を呼んだのだそうだ。

秘めているのなら

 だが、壇上から彼らの表情を見ると、十分に心を開いていた。会場から声も飛び、社交的だった。健康的で積極的な青年たちが目の前にいた。

 パソコン=オタク? 勝手に線を引いていたのは私の方だった。懸念は晴れ、自分がいかに若い男性に偏見を持っていたか、「どうせ通じない」と見ていたかを反省した。

 講演を終え、その男性社員たちの中を歩きながら会場を後にした。中高年女性だと私に抱きついたり手を振ったりと感情表現が豊かだ。が、若い青年たちは違った。あれほど会場では沸き立っていたのに、感情的だったのに、舞台を降りて触れてみると、彼らはいっせいに感情に封印をし表情を固めていた。

 ・・・ああ、これが主催者さんのいう、社交的になってほしい側面なのか・・・。

 と気づいたが、私は心配しなかった。

 なぜなら舞台の上からだから見える彼らの眼の輝きというのがあった。

 自分が興味があるモノには、彼らはしっかり素直に感情を示せる。

 これがあれば大丈夫だと思えた。同じ平場では私に感情を隠したとしても、もともと情熱を秘めているのなら、それでいいじゃないか。

 若い女性だから元気とは限らない。“オタク”だから無表情とは限らない。気づけば、苦手意識を克服した私がいた。

 今回の“勝因”は、新しいネタを仕込んだとか、そういうことではない。嫌なものを無理やりに好きになろうとしたわけでもない。

 手痛い敗戦の後に、立ち止まらなかったこと。思い込みに、閉じこもらなかったこと。言葉にするとありきたりな気も致しますが、本日はご清聴ありがとうございました。

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