「これは厄介だな…」と察知すれば、警察ではなくプロダクションがタレントを守る。予定を安易に公開しない。生放送時には裏動線で動く。移動時には前後左右をスタッフで固める、などのガードは、我々の職業ではごくごく普通のことで、日常といっていい。

 芸能界では、ストーカーは、驚くべき突発的存在ではなく、ほんの少数ながら常時存在するものとして認知される。だから常に目を配り、その存在を把握することで、トラブルを未然に防ぐ。

 だから福山雅治さん宅に侵入したコンシェルジュのように、日常に紛れ込まれると相当に厄介だ。

 私がマンションを選ぶ時も、コンシェルジュがいて有人警備の整ったクラスの物件を望むが、コンシェルジュにすべてを託すようなことはしない。身近にいて様々な情報を掴みうる存在は、危うい存在にもなり得るからだ。もちろん大多数のコンシェルジュの方々は職務に忠実に、利用者のために励んでいらっしゃるはずだが、託し託される関係になるには、相応の用心も必要だ。一流ホテルのスタッフが、宿泊中のタレントの行動をネット上に安易に晒してしまう時代なのだから。

 福山雅治さんの事件では、コンシェルジュが女性で、福山さんのファンで、出くわした吹石一恵さんに危害を加えることもなかったのは何よりだった。男性のコンシェルジュで吹石さんのファンで、などと考えると、背筋が寒くなる。芸能界とは、そんな危険と紙一重のところにいるプロ集団だ。

規制の前も後も

 なぜ警察が守れなかったか。これは被害者が出る度に問われている。

 その答えは、昔はストーカー規制法がなかったから。今はストーカー規制法があるせい、だ。

 どういうことかというと、ストーカーという概念がなかった時代は、どれほど警察に助けを求めても「被害以前」だから警察は動けない。「怖い」くらいじゃ楽屋入口を警備してくれない。明確な被害や脅しがあれば別だが、ストーカーはもともとが「好き」という感情から入っている。実際ちょっと前までは単なるファンだったのだ。警察に行ったところで「熱心なファンでしょ?」で帰された。

 ストーカー規制法ができた後は、規制法の内容に警察が縛られる。

 かつてメールを日に千通単位で送られた女性が警察に駆け込んでも、嫌がらせ行為に「メール」という項目がなかったせいで警察は動かなかった。

 その女性が実際に危害を加えられた後、嫌がらせ行為に「メール」も加わった。法律とは被害が出て初めて改善される。つまり、法律がなかった時はそれを理由に、できた後にも時にそれが縛りとなって、警察が容易に動けない構造が続いている。

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