私もまた、時が止まった人、になっていたことに気づいた。パターン化していた。実際、赤かピンクかベージュがあれば、ほとんどの場合、事足りたのだ。結果、そこで自分が止まった人になってしまっている自覚がなかった。
が、その成否は画面映りを見てみないと分からない、と、放送を自分の目で確認してみた。
そして、驚いた。
現場で見たのよりもっと、化粧が完成していた。「美しくなった」のではない。野球でいうと、ストライクど真ん中の化粧。舞妓の白塗り化粧には、真っ赤な口紅以外の選択肢はない。そこがピンクだとあの絢爛豪華な衣装の全体バランスが崩れる。それくらい口紅の色は、あんなに占める容積は少ないのに、全身の決め球になるのだ。
それが、完成していた。
そして、観た人からも「今日はきれいに映っていた」と感想をいただいた。きれいになったのではない。きれいに見えるように色の決め球が決まった、というほうが正確だろう。
決め球はパレットの中に
私はそれまでの自分の意識を変えることにした。自分の顔は自分が一番よく知っているから顔を他人にはまかせないという主義が、たった一回の口紅で変わった。
いつも目の前にあったのだ。毎回毎回、収録の度に化粧前にはそのパレットが並んでいた。それを無視し続けてきたのは私だ。
そして、いつもお決まりの、赤、ピンク、ベージュ、のどれかを塗っておけばそれなりに恰好はつく、と、パレットを開くことさえなかった。困ってやっと開いたのだ。開けてみればそのパレットにプロ意識が満載に詰まっていた。
いつもこんな準備をメイクさんはしてくれていたのか…と感じ入った。開かれない日々がずっとずっと続いていても、それでも毎回、この完璧に16色を並べる準備をしていたのか、と。