目をつぶっていても分かる。自分の顔に置かれる筆の感覚が、絶対に私の眉毛のラインではないのだ。ものすごく変な場所に眉毛を書いてますよ!と思いつつ、目を開けるのが怖かった。
想像どおり、目を開けて、完成した自分の白塗り化粧を見た時の衝撃は今も忘れない。
眉毛が八の字に垂れた、なんとも情けない、泣き顔のドジな舞妓に仕上がっていた。
私はそもそも目鼻立ちがはっきりしない顔だ。眉毛も薄い。だから、地顔をベースにメイクをすると、ほぼしていないようなぬらりひょんのような顔になり、眉毛のベースがしっかりしていないから、うっかり「このくらいかな?」で書いてしまうと、泣き顔みたいに垂れ下がったり、不機嫌かというほど吊り上った眉毛にもなる。
困った顔…いや、“自由自在”の顔なのだ。「これでもか」としっかり化粧をすることで、ようやくフツーの人くらいの顔になる。過去に出会ったプロたちは、私の顔の事情にフィットしなかった、ということにして、それ以来ずっと、何十年も、メイクは自分で、が私の主義だった。
紫のブラウスに合う口紅は
が、先日、紫色のブラウスを着て番組に出た時だ。自分の口紅に紫色系がないことに気づいた。ピンクか赤かベージュ色、くらいだ。そこで、何年ぶりかにメイクさんに聞いた。
「紫系の口紅ってありますか?」
「ありますよ」
そしていつも化粧前(楽屋の化粧台)に置かれていながら、いつも無視してきたメイクパレットを開けてくれた。
そこには、"いつでも使ってください"とばかりに8色ずつ2列に並べられた口紅の、市販ではない手作りグラデーションがあった。メイクさんは助言もくれた。
「紫の服だからって、紫を塗るんじゃなく、この色を合わせてみてください」
そうやって言われるがままに塗ってみると、これまでになかった自分が誕生した。
…うそ。