まず、カーテンの入った段ボールをまるでお殿様への献上品のように部屋に運び入れる。気概を持って運ばれる段ボール箱は桐の箱のように見える。そこから抱き上げられるカーテンは、貴族に捧げる新調のドレスのよう。そして次の瞬間が、私の一番好きな光景だ。

それは受け継がれたもの

 抱きかかえたカーテンを自らの片方の肩に宝物のように乗せ、真剣な眼差しで窓に向かう。そして、美しく折りたたまれたカーテンが、するするとほどけるように窓枠に広がっていく。

 彼が若いころに先輩の作業を見て覚え、教えられてきたのであろう滑らかな動きがそこにある。その向こうに、一つ上の世代の職人さんの凛とした作業姿まで見えるようだ。

 そんなカーテン屋さんが異動となり、彼が育ててきた2人の後輩が私の担当になった。が、2人ともやがて辞めていった。

 その後、久しぶりに会った彼に「部下を育てるのは大変ね」と声を掛けると、「そうなんですよ」と苦笑いが返ってきた。

 その時、彼に上司から電話がかかってきた。聞くとはなしに耳に届いたやり取りに驚かされた。

 「ですから、2000万円は…」

 に…にせんまん。カーテン屋さんが口にする、2000万円とはどういうお金だろう。

 厳しい表情でその金額が何度も会話に登場した。電話を切るのを待って、聞いてみた。

 「今の話の相手、上司?」
 「そうです」
 「2000万って言ったよね。なんのお金?」
 「上から言われている今月売り上げなければならない金額です」
 「それが、に、にせんまん!?」
 「そーです。にせんまんです」

 こんなべらぼうなノルマを課せられていたのか…。そんな彼に安くカーテンを作ってもらったことを今さらながら申し訳なく思った。